2014 Fiscal Year Research-status Report
日本の聴覚障害教育における口話法導入の経緯とその教育的・社会的基盤
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23730865
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Research Institution | Kyushu Lutheran College |
Principal Investigator |
佐々木 順二 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (20375447)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 言語指導 / 口話法 / 教師教育 / 研究サークル / 歴史 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.官立東京聾唖学校が掲げた聾教育の理念・目的論の分析:大正末期以降の口話法による教育の推進者の一人であった川本宇之介の言語指導論ならびに彼が言語指導の変遷をどのように捉えていたかの分析を進めた。川本の言語指導の変遷に対する捉え方は、戦後期の聾学校の教師教育の中でも語られていったと推察され、この点を、実際に教師教育を受けた教師たちの言説と関連させて検証する必要があると思われた。 2.口話法の教育的基盤としての聾学校教師による研究サークルの分析:昭和戦前期の日本聾唖教育会の共同研究会記録に関する既収集資料を基に、全国の聾学校がどのような協同研究問題を掲げ、それぞれどのような実践研究をおこなったかを整理する作業を進めた。事例として取り上げた熊本県立熊本聾学校は、福岡県立福岡聾学校など他のいくつかの学校とともに、共同研究会での報告が多くみられた。同校が日本聾唖教育会の中でも重要な役割を担ったこと、官立東京聾唖学校師範部出身の教師のネットワークが存在したことが推察された。 3.口話法導入の教育的・社会的基盤の日本的要素を析出するための作業:口話法において独自の伝統をもつイギリスに関して、聾教育史および聾に対する文化的構築の歴史に関する先行研究の収集を進めた。19世紀前半のイギリスでは、書き言葉と種々の形態の手話をもちいた言語指導がおこなわれた。19世紀末には純口話法による教育に移行し、20世紀には聾教育の官僚主義化が教師教育と教師の供給システムと連動して進行したことがうかがえた。こうした知見は社会構築主義の視点からの歴史研究から得られており、研究の視点・方法という点で、日本の口話法導入の社会的基盤の究明において有効な部分があると思われた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は、9月後半まで育児休業を取得し、平成27年度への研究期間の延長を前提として研究の推進方策を計画し、作業をすすめた。 熊本県立熊本聾学校における史資料収集および同校元教師への聞き取りや、既収集文献の翻訳など、一部達成できなかった内容もあるが、既収集資料の読解と分析、戦後の聾教育の目的・方法論の変遷を把握するための史資料の収集ならびにイギリスの聾教育史に関する先行研究の収集を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、以下の内容に取り組み、本研究課題の総括をおこなう。 1.官立東京聾唖学校の聾教育の理念・目的論、方法論に対象論の視点を加え、口話法の理念と実態のかい離を含めた歴史的事象の把握を試みる。 2.聾学校教師らによる研究サークルとしての日本聾唖教育会に着目し、熊本県立熊本聾学校からの発表内容と議論、官立東京聾唖学校師範部出身の教師が熊本校の教育体制の整備、教育方法の研鑚に果たした役割を分析する。この作業のために、同校での史資料収集、同校の元教師への聞き取りをおこなう。 3.比較教育学の方法のための視座をイギリスから得るために、同国における口話法の開始と普及の経緯、並びに口話法への社会的期待にかかわる基礎資料の収集をおこなう。7月にエディンバラで開催される国際聾史学会に参加するのに合わせて、現地でも資料収集にも取り組む。 4.平成27年度も育児に伴う短縮勤務であるため、研究時間の確保が課題となる。研究の進捗が厳しい場合には、分析対象の限定、研究期間の延長申請も視野に入れて作業を進める。
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Causes of Carryover |
平成26年度は、9月後半まで育児休業を取得し、また9月後半以降も育児にかかる短縮時間勤務であった。確保できた研究時間の中で、文献の収集と分析を進めることができたが、海外を含む遠距離出張費、翻訳依頼等にかかる研究費の使用ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、海外でおこなわれる国際学会への参加(7月)、国内学会への参加2回(8、9月)のための出張費、国内での史資料収集および研究会への参加にかかる出張費、ドイツ語文献の翻訳依頼にかかる費用、文献購入費、聞き取り調査にかかる謝金に充当していく計画である。
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