2015 Fiscal Year Research-status Report
日本の聴覚障害教育における口話法導入の経緯とその教育的・社会的基盤
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23730865
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Research Institution | Kyushu Lutheran College |
Principal Investigator |
佐々木 順二 九州ルーテル学院大学, 人文学部, 准教授 (20375447)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 言語指導 / 口話法 / 劣等児 / 教師教育 / 聾コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
1 昭和戦前期の聾学校における「劣等児」問題の分析:口話法の理念と実態のかい離の様相を把握する作業として、日本聾唖教育会の昭和8年の共同研究発表会の共通論題の中から「口話学級に於ける劣等児の取扱方」を選定し、7件の報告と質疑を分析した。その結果、聾学校「口話学級」では、第一に口話成績、学業成績で遅れる児童生徒がおり「劣等児」として認識されていたこと、第二に「劣等児」の原因として、知能、身体・健康状況、家庭環境等が考えられており、学校によっては、教授法の問題への自覚もみられたこと、そして第三に、教育実践者たちの対処方針・対処方法には、いわゆる「劣等児・低能児」教育(=「精神薄弱児」教育)のものと通じる要素と、言語指導につなげようとする要素があったことが分かった。 2 熊本県立熊本聾学校、熊本県立盲学校、熊本県立図書館等での史資料収集:共同研究者とともに、熊本県における盲唖教育にかかわった人物、組織、支持基盤を把握するための史資料収集に着手した。この過程で、口話法導入以降の熊本県立盲唖学校の教育体制、専門的教員補充を含めた教育体制の実体解明につながる史資料を収集することができた。 3 第9回国際聾史学会(エディンバラ開催)への参加と現地での資料収集:研究発表を聴き、近代以降のヨーロッパ、北米におけるDeaf Sports ClubやDeaf Clubが果たした役割、手話を使用する聾者コミュニテイが各国、各地域で生まれてくる経緯とそれが果たした役割が垣間見えた。また、聾者コミュニティをマジョリティ社会の中にどのように位置づけるのかは、聴覚障害教育におけるコミュニケーション方法の選択をめぐる議論とも深く関わってきたこと、そして、口話法導入を推進する教育者たちが、聾者コミュニティをどのように評価してきたのかという点は、今後の聴覚障害教育史研究では欠かせないものであると考察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初に立てた推進方策をほぼ順調に遂行することができた。特に、熊本県の盲唖教育の発祥を全体的に把握する史資料収集に着手できたことは大きな成果であった。この作業は、共同研究者を得ることで、大幅に進展させることができた。一方、本研究課題を総括する作業にまで到らなかった。収集できた資料に基づく研究成果の発表と総括は、研究期間を延長し、次年度におこなう。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、これまで収集した資料を基に研究成果をまとめ発表すること、データが不足する部分を補う資料収集を行うこと、今後の研究発展のための準備に着手することの3つをおこなう。 1 口話法を支える専門的教員の養成と補充については、官立東京聾唖学校の教員養成、日本聾唖教育会共同研究発表会を主対象に分析を進め、口話法導入の教育的基盤を明らかにしていく。地方聾学校の事例としては、熊本県立盲唖学校を中心とし、専門的教員の補充状況、学校の支持基盤、口話法教育を期待した家族の背景等に注目して分析を進める。研究成果を研究論文にまとめ学会発表、学術誌への投稿をおこなう。 2 研究データの補充としては、次の二つの作業を行う。1)熊本県立盲唖学校およびその後身校の元教員、卒業生への聞き取りをおこなう。2)昭和戦前期以降の聾学校教師の研究サークルにかかわる文献収集をおこなう。特に、聴覚障害者教育福祉協会が収集整理している史資料にアクセスしたい。このことにより、研究の総括を支えるデータを得るだけでなく、今後の研究発展の糸口を得たい。 3 今後の研究発展のために、聴覚障害教育史研究者と接触し、史資料調査等を通じた共同研究の可能性を探る。
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Causes of Carryover |
平成26年度に前半に育児休業を取得し、同年度後半および平成27年度は短縮勤務であったため、両年度における史資料収集のための国内外への遠距離出張が予定通り行えなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は、研究成果発表にかかる国内学会・研究会への参加、データ補充にかかわる史資料収集、そして聴覚障害教育史研究者との研究協議のための出張旅費に使用する。また、データ補充として行う聞き取り調査にかかる謝金にも使用する。
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