2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740004
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
阿部 紀行 北海道大学, 創成研究機構, 特任助教 (00553629)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 半単純リー群 / 既約表現 / ジャッケ加群 |
Research Abstract |
放物型誘導表現のJacquet加群の具体的な記述が研究の目的であったが,それを実行するにあたり,Jacquet加群それ自身の性質をさらに詳しく調べた方がよいと考え,特にJacquet関手の幾何学的実現に関する研究を,九州大学の三枝氏と共同で行った.Jacquet関手は,すでにEmerton-Nadler-Vilonenにより幾何学的実現が与えられていた.彼らの実現は旗多様体を用いるものである.Jacquet加群はもともと表現の漸近的な挙動をとらえるために考えられた.それに対応するように,彼らの実現は隣接輪体関手というある種の極限をとる関手として実現されていた.しかし,旗多様体はコンパクトであるため,極限をとるための「境界」がない.彼らは複素数平面から0を除いたものとの直積を考え,除いた0に向かう極限をとることで実現を与えた.本年度我々が与えた幾何学的実現は,旗多様体ではなく対称空間を用いるものである.対称空間はコンパクトではなく,「ワンダフルコンパクト化」と呼ばれる自然なコンパクト化を持つ.従って,境界に向かって極限をとれば,Jacquet関手が実現できるのではないか,と考えるのは自然である.本年度我々は,コンパクト化の中で境界に沿って法錘への変形をとり,変形により得られた空間の中で隣接輪体関手を用いることで,Jacquet関手が実現されることを示した.また,この実現と,私が既に得ていた放物型誘導表現のJacquet加群に関する構造定理との関係を調べたが,具体的な関係を得ることはできなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初,本年度はJacquet加群を記述する枠組みであるモーメントグラフの理論を整備する予定であった.しかし,その過程でJacquet関手の性質をより知るべきではないかという考えに至り,本年度は当初の予定とは違い,Jacquet関手そのものの性質を調べた.特に,その幾何学的な性質に関する結果を得た.これは,当初の予定とはやや違う研究となる.しかし,本年度得た結果は,今後の研究に有効であろうと思われる.私が既に得ていた放物型誘導表現の構造定理も,幾何学的な構造に由来するものであり,本年度の研究と関連するのではないかと思っている.有効に使えば,本研究の目的である放物型誘導表現のJacquet加群の計算を簡略化すると期待している.このように,予定とは違うものの,本研究の目標に有効であると思われる結果を得ることができた.そのため,トータルとしては「おおむね順調に進展している」と評価をした.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定では,モーメントグラフの理論を整備し,それによる放物型誘導表現のJacquet加群の記述を行う予定であった.本年度は,この予定とは違い,23年度に得られたJacquet関手の幾何学的実現について,より深く理解しようと考えている.特に,既に私が得ている放物型誘導表現のJacquet加群の構造定理と,今年度得られたJacquet関手の幾何学的実現との関係を知ることを一つの目標としたい.この二つはどちらも幾何学的な構造に由来している.しかし,同じ幾何学的であるとは言っても,片方は解析的,片方は代数的と言ってよい構造を持っている.そのため,両者の関係は自明ではない.きちんと知るにはそれなりの時間を要するであろう.しかし,そのような関係を明らかにすることは,本研究の目的のみならず,Jacquet加群のより深い理解にもつながると考えている.そのような関係が明らかになったと考えたら,予定通りモーメントグラフの理論を整備し,それによるJacquet加群の記述を行う.幾何学的実現との関係は,この計算を行う際に有用であり,全体の計算量を減らしてくれるであろうと期待している.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
効率的に旅行日程を組むことなどにより生じた未使用額について,研究成果の発表や国内外との研究者との様々な議論を行うための旅費として24年度に利用する.
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