2011 Fiscal Year Research-status Report
代数曲面上の安定層のモジュライスキームの双有理幾何的性質の研究
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23740037
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
山田 紀美子 岡山理科大学, 理学部, 講師 (70384170)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 安定層のモジュライ / 倉西理論 / 高次元多様体の双有理幾何 / 小平次元 / 標準特異点 |
Research Abstract |
本研究の問題意識は「双有理幾何に注目して、豊富直線束$H$に対して安定な層のモジュライ空間$M(H)$の性質を調べる」ことであり、そのために「層のモジュライ空間$M(H)$の特異点は標準的なのか」が問題になっていた。平成23年度には、申請者は次の事実を証明した:曲面$X$は標準類が0に数値的同値とする。つまり、$X$はEnriques曲面、bi-ellipticな曲面、K3曲面、Abel曲面のいずれかとする。$\dim M(H)$がある計算可能な数値よりも大きければ、$M(H)$は標準特異点しか持たない。よって、もし$M(H)$がコンパクトなば$M(H)$の小平次元は$0$である。この研究の意義や重要性を述べる。そもそも、層のモジュライ空間の特異点の「たちの良さ」(標準的か否かなど)を調べる既出研究は、申請者の知る限り存在しない。また、Enriques曲面上の層のモジュライ空間を調べる論文はKimの論文(Nagoya Journal)しか存在しない。よって、既出研究とは別の切り口で層のモジュライ空間を調べる手がかりを提案したと言える。また、小平次元が$0$である高次元多様体の実例を与えている。高次元のCalabi-Yau多様体の実例はあまり知られておらず、高次元のhyper-Kahler多様体は、K3曲面上の層のモジュライに由来するもの以外はあまり知られていないのが現状である。この中で、Enriques曲面上の層のモジュライがどういう位置に立つのかという興味深い問題を提起している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
応募書類(22年度秋提出)の「年度ごとの研究計画」では、23年度は「筋道が見えてくるまでは…試行錯誤して考察する」期間となっており、応募書類を書いた時点では、($X$がEnriques曲面の場合でも)層のモジュライ空間が標準的かどうか全く分からず、仮説すら立てられなかった。23年度が終わった今の時点では、この問題に関して「研究実績の概要」欄で述べたように何らかの結果を得ることができ、1年前に比べれば、若干の感触のようなものを得ることができた。より具体的に言うと、応募書類「研究計画」の中で、「(モジュライ空間の)定義方程式の具体的理解・計算に使用できるように倉西理論を再検討する」ことが重要であるが、「どういう方向で整備するかは特異点論に強い人の助言が欲しい」と述べた。23年度の研究では、$Ext$のカップ積の構造を知ることが重要であり、どういうことが分かれば特異点の「たちの良さ」が分かるかと言えば、カップ積が与える2次形式を$t_1~2+\dots+t_N~2$(~はべき乗を示す、文字コードの事情のため)と書いたとき$N\geq 3$となるか否かが分かれば良い、ということを使った。応募書類の中で「色んな分野の専門家と研究打ち合わせをするための旅費として、科研費を使いたい」と書いたが、実際にそのように科研費を使用する中で分かってきたことである。まとめると、1年前にはほとんど何の仮説も立っていなかったのが、現在はEnriques曲面の場合に結果を得て、今後研究を進める足掛かりにすることもできそうなので、達成度はおおむね順調と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」欄で述べたように、申請者が考えている問題の一つに「層のモジュライ空間は標準特異点しか持たないのか?」という問題がある。平成23年度には、この問題を、下部曲面がEnriques曲面等である時に考えたので、今後は、下部曲面がより一般の曲面(楕円曲面、一般型曲面)である場合に、この問題を考えていく。下部曲面がEnriques曲面である時と一般の場合との違いの一つは、「$M(H)$の特異点は局所完全交差(l.c.i.)であるが、Enriques曲面の場合とは違い超平面特異点ではない」ということである。超平面特異点なら「定義方程式の2次の項を$t_1~2+\dots+t_N~2$と書いたとき$N\geq 3$となる」かどうかで、標準特異点かどうか判定できるのだが、局所完全交差の場合はここまで簡明な判定法があるわけではなさそうである。Enriques曲面の場合から推論して、$Ext$のカップ積の構造を調べることから始める方針だが、標準特異点かどうか見分ける判定法で、カップ積の研究と相性の良いものをうまく見つけられるかが、一つのポイントになるであろう。このような研究のすえに「層のモジュライ空間は(大抵)標準特異点しか持たない」ことが分かった場合、応募書類に書いたように、層のモジュライ空間を双有理幾何学(MMPなど)を使って調べられるかどうかを考えることになる。「標準特異点より悪い特異点がある」ことが分かった場合、「たちの悪い特異点」を引き出すような安定層がどのような特徴を持っているか解明と記述につとめることになるであろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
23年度は、科研費を使いきれず残高が生じたが、これは申請者が、23年度に現在の教育機関に着任して1年目で教務に不慣れであったため、教務に充てる時間が予想以上に多くなってしまい、出張する時間をなかなか確保できなかったためである。これに対して24年度は、少なくとも23年度よりは教務に慣れてきており、中期の海外出張の予定も立てている。より良い予算の使用ができる見込みである。応募書類にも書いたように、申請者がもっとも研究費を多く割きたいのは、「安定層のモジュライ理論をはじめ特異点論やMMP理論など、必要に応じて色んな分野の専門家と研究打ち合わせをするための旅費」である。本研究は複数の分野の境界的な話題を扱っているので、これはとても重要な項目である。また、23年度は他の研究グループの研究内容をチェックする余裕がなかったので、研究集会に出席することで、これらの新しい研究動向も調査し、自分の研究にも生かしたい。例えば、安定性やモジュライの壁越え問題とMMPの関係に注目するグループがあり、申請者には興味深い。一方、地理的な理由もあるのか、海外で、申請者自身の研究結果が単純に知られていない、宣伝をもっと積極的に行った方が良いのではないかと思うようになった。評価される以前に、まず知られなければ何も始まらない。海外出張をした折には、上で述べた目的以外にも、自分の研究の話を周りにしていこうと考えている。まとめると、出張を通して「色んな分野の専門家と研究打ち合わせ」「他のグループの研究の情報を収集」「自分の研究を宣伝」を行いたい。
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