2012 Fiscal Year Research-status Report
代数曲面上の安定層のモジュライスキームの双有理幾何的性質の研究
Project/Area Number |
23740037
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Research Institution | Okayama University of Science |
Principal Investigator |
山田 紀美子 岡山理科大学, 理学部, 講師 (70384170)
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Keywords | モジュライ / モジュライ空間 / ベクトル束 / 安定連接層 / 代数曲面 / 変形理論 / 双有理幾何 / 特異点 |
Research Abstract |
非特異複素射影曲面X上の偏極Hに対し、H-安定層のモジュライスキームM(H)は、モジュライであるという具体性をもった高次元代数多様体である。一方、双有理幾何学は、高次元代数多様体を調べるのに重要な理論の一つである。本研究の目的は「高次元代数多様体M(H)を、双有理幾何学に注目して性質を解明したい。特に、小平次元を評価したい」であり、そのために「M(H)は標準特異点しか持たないようにできるのか?」という問題を知ることが重要である。 平成23年度には、Xがエンリケス曲面の時に、expected dimensionが7以上ならばM(H)は標準特異点しか持たないことを示し、論文にまとめ、平成24年度中に、学術雑誌に受理された。以上のように、Xがエンリケス曲面の時は研究目的に達することができたので、平成24年度には、Xが楕円曲面の時に「M(H)は標準特異点しか持たないようにできるのか?」 という問題を一貫して考えてきた。 平成24年度中の研究は、論文にまとめられるきりの良い段階までには達しなかったものの、ある程度進めることができた。M(H)が安定層Eで特異点を持つならば、トレースがゼロである、自明でない準同型$f:E\rightarrow E(K_X)$がある。平成24年度の研究により、「 Eが局所自由で$\det f=0$の時、M(H)は標準特異点しか持たないようにできるのか、という問題に対し有効なアプローチがある」ということを、示す見通しがついてきた。一方、「Eが局所自由でなかったり$\det f\neq 0$である時にも、有効なアプローチを作る」ことは、平成24年度では進展は未だ半ばであったので、平成25年度に重点的に取り組むべき問題として持ち越された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題が開始して2年経過したが、我々の重要な問題「安定層のモジュライM(H)は標準特異点しかないようにできるか?」は、Xがエンリケス曲面の場合には一般的な解答がすでに得られた。そしてXが楕円曲面の場合には、「研究実績の概要」欄で述べたように、研究の進め方にある程度道筋が見えてきつつあるし、標準特異点を持つかどうかを考える上で注意すべき連接層がどんな特徴を持っているかが見えてきた。 小平次元が1である楕円曲面上の安定層のモジュライの大域的・双有理構造は、1980年代にFriedmanが精力的に研究したが、その後はあまり研究が活発とは言えない。そのため参考文献が少なく、当初から、楕円曲面に関してはじっくりと時間をかけて研究する予定であった。つまり、時間がある程度かかることは折り込み済みである。研究は進捗しているので、平成25年度も引き続き研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究ではまず、「M(H)は標準特異点しか持たないようにできるのか?」という問題を、Xが楕円曲面の時に解決することを目指す。 もしこの問題が肯定的に解決できたら、Hが十分Xの標準類$K_X$に近ければM(H)は極小モデルになるので、M(H)の極小モデルプログラムのモジュライ理論的な解釈を行う。特に重要なのは、多重種数写像$\Phi_{M(H)}$の、モジュライ理論に沿った解釈を行うことである。また、$M(H_X)$の多重線形写像の一般ファイバー$F$は小平次元$0$であるが、$F$はどんな多様体か、という問題も考えたい。以上の方針で、「高次元代数多様体M(H)を、双有理幾何学に注目して性質を解明したい。特に、小平次元を評価したい」という問題を、主にXの小平次元が正の時に考察する。 もし、M(H)に標準特異点ではない、たちの悪い特異点の存在の可能性を排除できない場合は、それはそれで、これまで不明であったM(H)の特異点の性質を調べる糸口となるだろう。この場合、標準特異点でない悪い特異点を与えるような連接層の特徴づけを与える、M(H)の部分的特異点解消を調べる方法がないか考える、などが考えるべき問題としてあげられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請者がもっとも研究費を多く割きたいのは、「安定層のモジュライ理論をはじめ特異点論やMMP理論など、必要に応じて色んな分野の専門家と研究打ち合わせをするための旅費」である。本研究は複数の分野の境界的な話題を扱っているので、これはとても重要な項目である。研究集会に出席することで、これらの新しい研究動向も調査し、自分の研究にも生かしたい。例えば、安定性やモジュライの壁越え問題とMMPの関係に注目するグループがあり、申請者には興味深い。 平成24年度には、海外の研究集会で申請者自身の研究発表を行ったが、見知らぬ研究者と研究結果について意見交換をするのはとても刺激的だった。今年度も、研究出張において、積極的に自分の研究の話を周りにしていこうと考えている。 まとめると、出張を通して「色んな分野の専門家と研究打ち合わせ」「他のグループの研究の情報を収集」「自分の研究を宣伝」を行いたい。
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