2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740063
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
新田 泰文 立命館大学, 理工学部, 助教 (90581596)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | GIT-安定性 / 相対K-安定性 / 漸近的相対Chow-Mumford安定性 / 定スカラー曲率ケーラー計量 / 端的ケーラー計量 |
Research Abstract |
本研究の目的は、偏極射影代数多様体における種々のGIT-安定性の間の関係や諸性質について、特殊計量の存在問題の観点から明らかにすることである。本年度は種々のGIT-安定性の間の関係として、偏極射影代数多様体の相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係について研究を行った。これは大阪大学の満渕俊樹教授と継続的に行なっている共同研究に基づく。 これまでの研究で、偏極多様体の相対K-安定性が漸近的相対Chow-Mumford安定性を導くように思われ、議論を重ねてきた。ところが、LiuおよびXuによって定スカラー曲率ケーラー計量を持つが(Donaldsonの意味で)K-安定でない多様体が存在することが指摘された。このことは現行のK-安定性の定義は特殊計量の存在問題の観点からは適切でないことを示唆している。一方でこのこととStoppaの結果を併せると、正則自己同型群が離散的なファノ多様体においてはK-安定性の定義に現れるテスト配置として中心ファイバーが正規であるもののみを考えれば、このような問題は起きないことが分かる。そこで、一般の偏極多様体においても、このような考え方のもとでK-安定性の定義を改良することで、このような問題が解消されるのではないかと期待することができる。現在はこのLiuおよびXuの指摘を基に議論を改良して、証明の完成を目指しているところである。 また、2011年8月にはこれまでに得られた研究成果を基に、中国科学技術大学で開催された国際シンポジウム"2011 Complex Geometry and Symplectic Geometry Conference"で"On relative stablities of polarized algebraic manifolds"として講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究目的の達成度は、おおむね順調であるといえる。本年度の研究計画は種々のGIT-安定性の間の関係として、偏極多様体の相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係を探ることであった。この研究は前述のLiuとXuの結果によりその土台たるK-安定性の定義の再検討を行う必要性が生じたのであるが、このことは研究の後退ではなく、テスト配置が潜在的に持つ問題点を浮き彫りにしたという点でむしろ前進したといえる。このことはテスト配置全体のなす空間(さらにはそのコンパクト化)を考えることの難しさを示唆しており、今後はこの部分を集中して研究を行う。 次年度以降ははまず現在進行中の共同研究の完成を目指し、研究に目処が立ち次第共著論文の執筆・投稿を行う。以上が完了したところでGIT安定性のさらなる関係の研究に着手する。具体的には、K-安定性とDonaldsonのK(-)-安定性およびb-安定性、あるいはそれらの相対版の間の関係を明らかにし、種々のGIT-安定性の中でのK-安定性の位置付けを明確にすることを目指す。K(-)-安定性、b-安定性は一般にK-安定性よりも強い安定性で、相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係とは異なる方向の研究である。しかし、基礎となるのはテスト配置とテスト配置に対して定義されるドナルドソン・二木不変量であると考えている。従って、現在進行中の研究の完成が急がれるのは言うまでもないが、その基礎付けをいかに強固にすることが出来るかが、今後の研究遂行のために肝要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
偏極多様体の相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係に関わる共同研究を完成させることが急務である。これまでの研究方策で最も肝要であった点として、K-安定性の定義に現れるテスト配置全体のなす空間のコンパクト化(これをテスト配置のモジュライ空間という)が挙げられる。このようなものを構成することでドナルドソン・二木不変量を上記のモジュライ空間で定義された、ある種の連続性を持つ汎関数と捉えることが出来る。この汎関数の振る舞いを詳しく調べることで相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の間の関係を探ることが出来る。モジュライ空間の構成はLiuとXuの指摘に基づいて改良する必要がある。そこで、テスト配置をその中心ファイバーが正規であるものに限ったとき、モジュライ空間がどう変わるか、あるいは変わらないかを調べる必要が出てくる。この違いを明確に記述して、証明を完成させることを目指す。以上の内容に目度が立ち次第、共著論文に纏めて発表するつもりをしている。 研究に目処が立ち次第、K-安定性とK(-)-安定性およびb-安定性との関係を調べる。K(-)-安定性、b-安定性はともにDonaldson-Tian-Yau予想の観点から導入された、強い安定性概念である。特に、K(-)-安定性は、少なくともナイーブにはK-安定性よりも強い安定性であるように思える。然しながら、非自明な正則ベクトル場を持たない場合、Donaldson-Tian-Yau予想の観点からは、実際にはK(-)-安定性はK-安定性から自動的に導かれるのではないかと考えられている。この問題についてさらに深く考察していくつもりをしている。このことと同様に、K-安定性とb-安定性の関係を検討し、これらの新しい安定性概念が本当に"強い"安定性概念であるかどうかを検討することに興味を持っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は代数幾何学と解析学の境界領域に位置するという性格上、非常に多岐に渡った分野の知識が必要になる。したがって、次年度も当該分野における現在までの先行研究を効率よく理解・把握するために、代数幾何学や解析学の専門書を多数購入する予定をしている。また、この分野は国内外を問わず非常に多くの研究者によって精力的に研究が進められている。こうした研究の動向を正確かつ素早く把握するためには、学会やシンポジウムを含む国内外のセミナーや研究集会に参加し、資料収集、情報交換を行うことが必要不可欠である。また本研究に関する各段階において何らかの研究成果が得られれば、そこでその成果を発表することで本研究内容の周知を務めたいと思っている。特に次年度12月はInstitut Henri Poincareにおいて国際シンポジウム"Recent Developments in Kaehler Geometry"が開催され、世界屈指の研究者たちが集まることが予定されている。申請者も是非このシンポジウムに参加して(また可能ならば研究発表を行うことで)、さらなる知見を深めたいと考えている。そのための研究旅費を次年度の研究費から充てたいと思っている。 一方、偏極多様体における安定性や特殊計量を具体的な多様体、例えばトーリック多様体など、で調べる際にはコンピュータを用いた計算が必要不可欠になる。そのために、高性能のコンピュータおよびソフトウェアを含む周辺機器の購入を考えている。 次年度も大阪大学の満渕俊樹氏との共同研究を継続するため、定期的に満渕俊樹氏と面会し、この問題に関する議論を行う必要性が生じる。このことを遂行するために、必要ならば大阪大学まで訪問するための交通費として研究費を使用するつもりをしている。
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Research Products
(2 results)