2012 Fiscal Year Research-status Report
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23740063
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
新田 泰文 立命館大学, 理工学部, 助教 (90581596)
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Keywords | GIT-安定性 / 相対K-安定性 / 漸近的相対Chow-Mumford安定性 / 定スカラー曲率ケーラー計量 / 端的ケーラー計量 |
Research Abstract |
本研究の目的は、偏極射影代数多様体における種々のGIT-安定性の間の関係や諸性質について、特殊計量の存在問題の観点から明らかにすることである。本年度も前年度に引き続き偏極射影代数多様体の相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係について研究を行った。特にK-安定性の基礎研究に力を注いだ。これは大阪大学の満渕俊樹教授と継続的に行なっている共同研究に基づくものである。 前年度のLiuおよびXuの指摘によってK-安定性の定義は特殊計量の存在問題の観点からは適切でないことが示唆され、その適切な修正について議論されてきた。その一方で、Szekelyhidiは斉次座標環のフィルトレーションを用いてテスト配置のある種の"極限"概念を考え、特殊計量の存在問題において従来よりもさらに強い意味でのK-安定性の必要性を示唆した。そこで本年度はテスト配置の極限について我々の研究の観点から考察・推進し、テスト配置のモジュライ空間およびそのコンパクト化の構成を試みた。特にテスト配置の列とその列に関するドナルドソン・二木不変量を考え、その種々の性質について研究した。このようなものを考えることで、強い意味のK-安定性においては種々の安定性の間の関係や特殊計量の存在問題においてこれまでに現れている種々の問題が克服できるのではないかと期待している。 また多様体における特殊計量の存在問題と関連して、佐々木・アインシュタイン計量の横断的正則自己同型群を法とした一意性が関谷健一氏との共同研究によって示すことが出来た。この内容は現在"Uniqueness of Sasaki-Einstein metrics"として現在The Tohoku Mathematical Journalで確認することができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究目的の達成度は、おおむね順調であるといえる。本年度はK-安定性の基礎研究としてテスト配置の極限およびテスト配置のモジュライ空間とそのコンパクト化を研究したのであった。この研究はSzekelyhidiにも同種の内容を指摘されており、偏極多様体におけるGIT安定性と特殊計量の存在問題に関する極めて基本的な内容であると言える。その強固な基礎付けが、今後の研究遂行をよりスムーズに進める助けになると期待している。 次年度はまずテスト配置のモジュライ空間とそのコンパクト化の構成を行い、偏極多様体における相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係に関する現在進行中の共同研究の完成を目指す。この問題はコンパクト化されたテスト配置のモジュライ空間が本質的な役割を果たし、特にその基本的性質から直ちに結論が得られるものと考えている。研究に目処が立ち次第共著論文の執筆・投稿を行う。以上が完了したところでGIT安定性のさらなる関係の研究に着手する。ここでもテスト配置のモジュライ空間およびそのコンパクト化は有力に働くと考えている。具体的には、K-安定性と関連するさらに強い安定性概念としてDonaldsonによるK(-)-安定性とb-安定性が知られているが、テスト配置の極限を介してこれらと我々による強い意味のK-安定性との間の関係を探ることができると考えている。 上記のように、テスト配置のモジュライ空間およびそのコンパクト化の研究は今後のGIT安定性の研究を遂行するにあたり強力なツールとして力を発揮すると期待することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
依然として偏極多様体における相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の関係に関わる共同研究を完成させることが急務である。まずはテスト配置のモジュライ空間およびそのコンパクト化の構成・研究に力を注ぐ。それからコンパクト化されたテスト配置のモジュライ空間を用いて従来よりも強い意味のK-安定性および相対K-安定性を考え、強い意味の相対K-安定性と漸近的相対Chow-Mumford安定性の間の関係を考察する。この問題はモジュライ空間の構成が肝要で、それが完成次第直ちに結論が得られるものと考えている。 一方、Donaldson-Tian-Yau予想の観点からは強い意味のK-安定性と従来の意味のK-安定性の間の関係も興味深く思われる。満渕俊樹氏の結果によりケーラー・アインシュタイン計量を持つファノ多様体はK-安定であることが知られているが、TianおよびChen-Donaldson-Sunらの結果によると、非自明な正則ベクトル場を持たないファノ多様体のK-安定性がケーラー・アインシュタイン計量の存在を導くことがわかる。これらは非自明な正則ベクトル場を持たないファノ多様体においてK-安定性が強い意味のK-安定性を導くことを意味する。このことから一般の偏極多様体の場合にK-安定性が強い意味のK-安定性を導くか、あるいはK-安定性であるが強い意味でK-安定性でない偏極多様体の存在問題は興味深い問題であるといえる。 また、K-安定性と関連するさらに強い安定性概念としてDonaldsonによるK(-)-安定性とb-安定性が知られているが、これらと我々の強い意味のK-安定性との間の関係もまた興味深い。特にK(-)-安定性は実際には強い意味のK-安定性と一致するようにも思われる。これらの問題についても検討していきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の分野は近年急速に発展しており、国内外を問わず世界中の研究者によって精力的に研究が進められている。この分野の研究動向を素早く把握するためには、学会やシンポジウムを含む国内外のセミナーや研究集会に参加し、資料収集、情報交換を行うことが必要不可欠である。そのための研究旅費を次年度の研究費から充てたいと思っている。また、本研究に関する各段階において何らかの研究成果が得られれば、そこでこれまでに得られた研究成果を発表することで本研究内容の周知を務めたいと思っている。 また次年度も大阪大学の満渕俊樹氏との共同研究を継続するため、定期的に大阪大学へ訪問し満渕俊樹氏と研究打ち合わせをする予定である。ところが次年度より報告者はその所属を立命館大学から東京工業大学へ移すため、大阪大学へ訪問するための費用が大きくなることが予定されている。そのため次年度は前年度までと比べて多額の旅費が必要になることが見込まれるが、このことについては本年度予定していた出張(“2012 Complex Geometry and Symplectic Geometry Conference”(2012年7月, 中国))が報告者の業務によって中止せざるを得なくなったことによって生じた未使用金があるので、それを充てることで対応するつもりをしている。 さて、前年度と同様に本研究は非常に多岐に渡った分野の専門的知識が必要になる。したがって、次年度も代数幾何学や解析学の専門書を多数購入し、当該分野における現在までの先行研究を効率よく理解・把握するために役立てる予定をしている。特にモジュライ空間のコンパクト化に関わる解析的な議論に関する専門的知識を補強する必要があると考えている。
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Research Products
(2 results)