2011 Fiscal Year Research-status Report
非コンパクトな錐特異点集合を持つ3次元錐双曲構造の具体的構成
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23740064
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
秋吉 宏尚 近畿大学, 理工学部, 准教授 (80397611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 双曲幾何 / トポロジー / 錐多様体 |
Research Abstract |
トーラス上に錐特異点を一つだけ持つ2次元錐多様体と開区間との直積として得られる3次元錐多様体をMとする.本研究の最初のステップとして,Jorgensenによる穴あきトーラスクライン群のフォード基本多面体に関する特徴付を錐双曲構造のものへと一般化し,Mが許容する錐双曲構造が「十分豊富に」存在することを保証することを目指している.S.P.Tan氏と山下靖氏による数値実験を中心とする先行研究と研究代表者による本研究に対する予備的研究を比較することで,Tan氏らが導入した階数2の自由群のPSL(2,C)表現空間における「BQ条件」から定まる部分空間と,本研究で構成しようとしているよい基本多面体から誘導される錐双曲構造のホロノミー表現からなる空間が一致することが予想される(秋吉・山下予想).この予想は穴あきトーラスクライン群に対してBowditchにより提起された予想の錐双曲構造の空間への拡張とみなされることから,この予想を肯定的に解決することが,よい錐双曲構造が豊富に存在することの傍証となると期待される.今年度は,研究代表者による予備研究として進められていた数値実験を継続するとともに,7月25日から27日にかけてイギリスで行われた国際会議においてTan氏,山下氏らとの研究打ち合わせを行うなどの研究を進めた.その結果として,錐双曲構造に関する秋吉・山下予想の半分にあたる「よい錐双曲構造のホロノミー表現はBQ条件を満たす」ことを証明することに成功した.研究打ち合わせにおいて山下氏らからもたらされた情報によると,一般の表現空間においてBQ条件と同値かもしれない他の条件(primitive-stable性)には数値実験により差があることが観察されているらしく,これらの条件とよい錐双曲構造からくる表現との関連をさらに調べるため,数値実験を進めているところである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要でも述べたように,今年度の研究ではよい基本多面体から得られる錐双曲構造が豊富に存在することを証明するために,錐特異点を1点だけ持つトーラスの基本群のPSL(2,C)表現に対し,それがよい基本多面体から得られる錐双曲構造のホロノミー表現であることと,それがTan氏らにより導入されたBQ条件を満たすことが同値であるだろうという秋吉・山下予想について,その半分にあたる,よい錐双曲構造のホロノミー表現はBQ条件を満たすという事実を証明することに成功するという成果が得られた.これは計画段階で今年度の研究の目標としていたことであったので,そういう点から今年度はおおむね順調に研究が進展したと結論づけられる.研究計画の時点では明確には意識していなかった,表現に対するその他の条件「primitive-stable性」に関する情報を研究打ち合わせを通して得ることが出来たのは予想にはなかったことで,今後の研究遂行においては,こうした条件の差異を注意深く考察していくことを研究計画に追加する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においては,大きく分けると2つの観点でよい錐双曲構造の研究を進めていく予定である.1つめは,よい基本領域から構成される錐双曲構造に対する変形理論の解析的観点からの研究である.最終的目標としては,リーマン面の擬等角変形理論におけるAhlfors-Bers理論の錐双曲構造版であるが,そのためのステップとして,まず,よい基本多面体の貼り合わせを通して自然に誘導される無限遠等角構造を固定するときのよい錐双曲構造の局所剛性を証明したい.今年度の研究における秋吉・山下予想の半分の証明において,よい錐双曲構造に対しては,クライン群論における凸核の類似物の存在が期待される現象を観察することができた.その事実を詳細に検討することで,錐双曲構造の幾何学的有限性の概念の導入も期待されるが,それもこの観点の研究に重要な役割を演じると期待される.2つめは,PSL(2,C)表現に対するBQ条件,primitive-stable性および,Tan-Wong-Zhangにより提唱されたEnding Lamination Conjecture (ELC)をよい錐双曲構造を用いて研究するという,表現空間の力学系的性質の観点からの研究である.これらの性質の研究における本質的な問題は,1点穴あきトーラスの曲線複体において,指標の値がある種の素直な分布に従うとき,よい基本多面体が存在するかどうかということである.そのためのアプローチとして,よい錐双曲構造が十分豊富に存在することと,1つめの解析的観点からの研究の成果として期待される,錐双曲構造がエンドの情報のみで決まるというAhlfors-Bers理論の類似物を用いるという手法をとるという構想を持っている.また,ELCの解決のために,「幾何学的無限」な錐双曲構造の概念も定式化し,ending laminationと基本多面体との対応の記述をも得ていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
よい基本多面体から得られる錐双曲構造の実現に関する数値実験を進めるため,数値実験に適したコンピューターを購入予定である.また,本研究課題とは異なる観点から錐双曲構造の変形理論を研究している作間誠氏(広島大学)やコンパクトな錐特異集合を持つ錐双曲多様体の大域剛性を証明した小島定吉氏(東京工業大学)らとの研究打ち合わせのために国内の出張を行う予定である.また,今年度得られた結果を国際会議もしくは研究集会で発表するために,海外もしくは国内出張も行う.また,よい錐双曲構造の,特に解析的観点からの変形理論の構築のためにに解析関連の参考図書を購入予定である.
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