2011 Fiscal Year Research-status Report
ジャンプ過程に対する統計的漸近推測理論の構築とその応用
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23740082
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 弘毅 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 准教授 (10380669)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | ジャンプ過程 / 統計的漸近推測 |
Research Abstract |
主として以下の二点を得た. (1)指数エルゴード的な多次元非線形確率微分方程式モデルに対し,疑似最尤法を定式化して,対応する推定量の漸近挙動を導出した.特に,一次元純粋飛躍型ノイズの場合に指数エルゴード性のための検証容易な十分条件も与えた.本結果により,正規型疑似最尤推定量の収束速度とその漸近正規性が得られた.また,漸近共分散行列の一致推定量を,駆動レヴィ過程の具体的な構造を要求せずとも適用可能な形で与えることに成功し,その結果,信頼領域の構成を直接的なものとした.更に,当該統計的確率場の一種の大偏差不等式を導出し,推定量のモーメント収束まで導出できた.これはモデルの予測評価や情報量規準(モデル選択)の構成における誤差評価で本質的となるため,推定後の様々な統計解析のための基礎的な道具が確保できたことになる.本結果は現在投稿中である. (2)オルンシュタイン-ウーレンベック過程について,有界期間での高頻度観測による最小絶対偏差 (LAD) 型推定量の漸近混合正規性を導出した.これは筆者の先行結果 (Masuda (2010), Electronic Journal of Statistics) で提案されたコントラスト関数の改良版を介して得られた結果であり,系として同論文における正則条件を弱めることにも成功した.本結果で特筆すべきは,有界時間区間上のデータでもドリフト母数推定に関する漸近分布論を展開可能な点である.安定型中心極限定理と一般の確率積分の弱収束に関する定理,および凸関数列の性質を併用することで,漸近混合正規性を理論的に明確化できた.当該推定量は正規型疑似最尤推定量よりも速い収束率を有し,拡散過程の場合と本質的に異なる漸近挙動を呈する.これは確率過程モデルのドリフト推定に新たな見解を与えるものである.現在執筆中で,来年度には投稿する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」の項目(1),(2)はそれぞれ,平成23,24年度の実施計画内容であった.当初の計画のうち,当初平成23年度および平成24年度それぞれに挙げていた項目の半分程度を達成できたことになる.平成24年度に実施予定であった項目(2)については,突如アイデアが浮かんだため,今年度に取り掛かった次第である. 平成23年度の実施計画で当初予定していた確率微分方程式モデルの残差系列の漸近挙動については目下進行中であり,特に,多変量ジャンプ検出を視野に入れた適合度検定のための検定統計量の解析も進めている.現在,例えば「多次元標本歪度のみでも,(ジャンプを有するという)対立仮説のも下での一致性が従う」という,古典的な独立同分布モデルとは著しく異なる興味深い現象が確保できている.
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に,当初の研究実施計画の具体的項目に沿って研究を進める. 多次元確率微分方程式モデルの残差系列過程の漸近挙動については,オイラー近似に基づいた残差系列を構成した上で,Mardiaの多次元歪度および尖度を利用し,帰無仮説下で漸近的にモデルフリーかつ対立仮説下で一致性を有するような検定統計量の構成を試みる.より具体的には,多変量Jarque-Bera型,Koziolの半径・角表示型の統計量の適用を考えているが,残差列の確率展開の観点から,エルゴード性の有無や観測機関の有界性などによらず,様々な統計量の構成に対応できる形での定式化を想定している.この目的に際しての基礎となる道具として,残差の高次モーメント系列に関する汎関数型極限定理の導出を試みる. 「研究実績の概要」(2)の極限定理の導出方法は汎用性が非常に高いため,様々な推定方式の漸近解析に直接的に有益であると予想される(特に,モデルのエルゴード性を外しての理論展開が可能となる点が新しい).この点を踏まえ,平成25年度実施計画の一部であった非正規安定型疑似尤度解析への適用を試みる.この研究内容は,非線形係数の確率微分方程式まで統一的に扱える推定関数を用いるという点において適用範囲が広く,また拡散過程の場合の正規型疑似最尤法の拡張であることから,ジャンプ型確率微分方程式の推測手法のスタンダードになり得ると予想している.平成24年度中にはまとめ上げて投稿する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
書籍などの物品購入の他,国内外のイベントへの参加を予定しており,主としてそのための旅費に充てる予定である.現在,6月には確率過程の統計推測を主眼とした研究集会"Dynstoch meeting 2012"(パリ)で講演,7月にはInstitute of Mathematical StatisticsとBernoulli Society共催の"8th World Congress in Probability and Statistics"(イスタンブール)での講演,また9月には"統計関連学会連合大会"(北海道大学)の企画セッションにおける講演が決定している.
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Research Products
(10 results)