2012 Fiscal Year Research-status Report
ジャンプ過程に対する統計的漸近推測理論の構築とその応用
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23740082
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
増田 弘毅 九州大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10380669)
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Keywords | ジャンプ過程 / 確率微分方程式モデル / 統計的漸近推測 |
Research Abstract |
以下の三点を得た. (1)再帰的とは限らない確率微分方程式モデルにおいて,自己規格化残差系列の汎関数から構成される統計量の漸近分布を導出した.モデルにジャンプが存在せず,かつ拡散項が正しくモデリングされているという帰無仮説の下, 汎関数型中心極限定理を与えており,特に,全観測期間が有界か否かに依らず適用可能な点に新規性がある.極限の正規分布はモデルに依存しないため,様々な一致検定の構成へ直接的に応用可能である.具体的な応用として,ジャンプの存在および拡散項誤特定の一致検定を定式化した.有限標本での数値実験を通じて,当該検定の有用性が示された.(本論文は採択済みである) (2)レヴィ駆動型オルンシュタイン-ウーレンベック(OU)過程を時間積分した確率過程の分布の高次漸近展開の正当性を示し,任意次数の展開係数の解析的表現を得た.本結果により,例えば不変分布の一致推定量である標本平均の漸近正規性とその高次近似が正当化される.特筆すべきは,有限回のジャンプのみを利用して構成される具体的な剪定汎関数を伴うマリアヴァン解析を介して,分布の滑らかさの導出に際して都合の良い事象へ状況を落とした点にある.結果として,古典的な特性関数の大域的評価を回避でき,非常に簡明で検証容易な十分条件を与えた.(現在投稿中) (3)安定型OU過程について,有界期間での高頻度観測の下で,自己回帰係数に関する漸近有効(最適)推定に関する結果を得た.本結果により,自己回帰係数の最適収束速度は正規型OU過程の場合のそれと著しく異なることが明らかとなり,同時に,絶対偏差(LAD)型推定量が最適収束速度を有することも分かった.本結果は現在,前年度の実施報告書に記載した「LAD型推定量の漸近混合正規性」に関する結果と平行して執筆中であり,当該研究期間中に投稿する予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度の実施報告書の「今後の研究の推進方策」で記載した確率微分方程式モデルの残差系列の漸近挙動に関する結果については,本年度に投稿・採択され,当初の目的を大きく改良・拡張する形で達成できた.本結果と前年度の実施報告書に記載した正規型疑似最尤推定量(改訂後再投稿中)に関する結果と併せ,交付申請書の研究目的の「研究実施計画(平成23年度)」に述べた内容は達成できた. 研究実績の概要(2)で述べた内容は,吉田朋広教授との過去の共同研究を改良したものである.証明において鍵となった剪定汎関数の具体的構成法は汎用性が高く,他の様々なジャンプ過程モデルの高次分布論へ適用できることが期待される. 「研究実施計画(平成24年度)」に述べた有界期間におけるLAD型推定量の漸近分布論については,主目的である漸近混合正規性は既に証明できており,複数の国際研究集会で発表している.これに関連して,特に安定過程で駆動されるOU過程の場合の漸近有効性に関する結果(局所漸近混合正規性)が得られ,高頻度データが統計的に有意義な情報を持つことを理論的に解明できた.本結果は,研究実績概要で述べた通り,LAD推定量の収束率の再適性を直接的に意味する.現在,数値実験による検証と併せて,両者を平行して執筆中である. 「研究実施計画(平成25年度)」に述べた,一般の非線形ジャンプ型確率微分方程式モデルの局所安定近似に基づいた疑似尤度解析については,エルゴード性の下での結果は得られており,既にいくつかの研究集会において発表している.現在,エルゴード性の仮定を落とした分布論の展開まで視野を広げて研究を進めている.前年度の実績報告書にも同様の内容を記載したが,今年度は遂行できなかった.
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に,当初の研究実施計画に沿って研究を進める.目下執筆中の内容を含め,当初の研究目的に記載した主題の完遂を目指す.具体的には以下の通りである. (1)OU過程のLAD型推定量の漸近混合正規性,および安定OU過程の局所漸近混合正規性に関して既に得られている結果を執筆後投稿する.また,安定OU過程の局所漸近混合正規性に関する結果も併せて執筆・投稿する.後者については,4月に開催されるDynstoch meeting 2013(Denmark)において発表することが決まっている. (2)一般の非線形ジャンプ型確率微分方程式モデルの局所安定近似に基づいた疑似最尤推定量の漸近混合正規性を証明し,執筆・投稿する.当該分布論の構築に際して本質的な道具となる安定型分布収束定理を確保し,漸近共分散行列の一致推定量の構成を含め,漸近標準正規性へ変換した定式化を試みる.結果の導出に成功すれば,信頼領域の構成や検定を自動的に行う事が可能となる.進捗次第では,8月に参加・講演が決まっている国際会議ISI 2013 (The 59th World Statistics Congress of the International Statistical Institute, Hong Kong August, 2013)において本内容を発表する.執筆後,平成25年度中に投稿予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内外の研究集会へ参加・講演する旅費として執行する.少なくとも,以下の講演が確定している. (1)Dynstoch meeting 2013(デンマーク)へ参加・講演. (2)EMS (European Statistical Meeting) 2013(ハンガリー)へ参加・講演(セッションオーガナイザも務める). (3)ISI (International Statistical Institute) Hong Kongへ参加・講演(セッションオーガナイザも務める). (4)統計関連学会連合大会@阪大へ参加講演(企画セッションにて講演).
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