2011 Fiscal Year Research-status Report
き裂先端における偏微分方程式の解の特異性からみた破壊現象の解明
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23740101
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
伊藤 弘道 群馬大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30400790)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 非線形弾性体 / き裂 / 剛性介在物 / 破壊力学 / 準線形楕円型方程式 |
Research Abstract |
実際に起きている破壊現象の背景にある数理構造を解明するため、様々な偏微分方程式のき裂先端における解の性質を深く解析した。平成23年度に行った主な研究は以下の通りである。1.応力・歪み関係式がべき乗則で表される2次元非線形弾性体におけるき裂問題についての研究を行った。このモデルは従来良く扱われてきた線形弾性体よりも広い枠組みで破壊現象を捉えられ実際の現象への適用も期待される。そこで、まず、面外変形(モードIII)を想定した場合を考えると、上記の非線形弾性体方程式はpラプラス方程式(準線形楕円型)となり、この問題について考察した。解の存在性や正則性については既に多くの結果が知られているが、き裂先端における解の詳細な挙動については未解決であり、結果を得るまでには至らず、現在も研究継続中である。2.弾性体中のき裂先端における解の挙動を別の角度から眺めるために、2次元線形弾性体中にき裂と同じ幾何形状の剛性介在物を持つ場合について考察した。この問題の意義は、理論的にはき裂の場合、境界条件を応力に対して与える(ノイマン条件)のが一般的であるが、剛性介在物の場合は変位に対して与える(ディリクレ条件)ので、き裂の場合とは異なった特異性が現れる可能性があり興味深い。また、剥離現象を考慮した境界条件についても考察した(ノイマンとディリクレの混合条件)。その結果、それらの問題を定式化し、境界値問題の解の存在と一意性を証明し、その解が介在物先端近傍でどの様な振る舞いをするのか、収束級数展開という形で詳細に調べた。さらに、その展開を用い、介在物先端におけるエネルギー解放率が経路不変積分で表現され、その展開の主要項の係数で記述される事を示した。この研究成果はロシアのラブレンティエフ流体研究所のA.M.Khludnev氏、E.Rudoy氏と慶應義塾大学の谷温之教授との共著として国際学術誌に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の大きな目標の1つは非線形弾性体に関する結果を得る事であるが、この数学解析は先行研究も少なく、非常に困難な課題である。しかし、他分野の様々な手法を用い、解決の糸口が見つかりかけている現況であるので、今後も継続し、本研究課題期間中には結果が得られる計画であり、進行状況はおおむね順調といえる。また、当初、本研究課題の目的にはなかったが、研究協力者であるロシアのラブレンティエフ流体研究所のA.M.Khludnev氏と同研究所のE.Rudoy氏、そして慶應義塾大学の谷温之教授との討論の中で、き裂ではなく剛性介在物を含む物体についての数学解析について新しい問題を知ることができ、それに関する新しい結果が得られた。それにより、本研究課題の主目的である偏微分方程式の解の特異性の構造についての新しい知見が得られた事は想定外の産物といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に当初の研究計画の通りに進めて行くが、特に非線形弾性体に関する問題の解決に重点を置く。その研究推進方策としては、この問題に関連する国内研究者はほとんどいないため、本研究を円滑に遂行する上で、研究協力者等との継続的な研究打ち合わせや研究支援の要請を考えている。また、考えるモデルや得られた結果の意義を検証するためには、工学研究者との情報交換も重要であるので、それらとの交流も計画している。さらに、平成23年度の研究調査により、対象とする物体は異なるが、流体方程式の中で本研究が扱う非線形弾性体の方程式と似た性質をもつものが存在する事がわかったので、流体研究者との研究討論により新しい知見を得ようと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度においてはほぼ当初の計画通りに経費を使用したが、海外旅費における為替相場などの影響により僅かな未使用額(80円)が生じた。平成24年度はその未使用額も含め基本的に当初の研究費使用計画の通りに進めて行く。平成24年度にはロシア(ノボシビルスク)での国際研究集会への参加や、いくつかの国内研究集会(京都大学数理解析研究所など)への参加を計画しているので、経費の大部分を、旅費として計上する。また、研究遂行上、破壊力学関係資料や偏微分方程式論を主とする数学関連資料は必要不可欠であるが、これらの文献資料は本学には不足しているため、それらの購入費も計上する。
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