2011 Fiscal Year Research-status Report
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23740115
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Research Institution | Miyakonojo National College of Technology |
Principal Investigator |
鬼塚 政一 都城工業高等専門学校, 一般科目理科, 講師 (20548367)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 関数方程式 / 安定性 / リヤプノフの方法 / 相平面解析 |
Research Abstract |
零解が指数漸近安定であるとは、零解近傍におけるすべての解が指数的オーダーで零解に漸近するときをいう。変数係数をもつ常微分方程式系(以下、非自励系と呼ぶ)に対する安定性は古くから研究されてきたが、係数が周期関数でない非自励系の指数漸近安定性は線形系ですら十分解明されたとは言い難く、その不安定性については殆ど未解明である。本研究では、2次元非自励系の不安定性理論の構築を目的とする。平成23年度は2次元非自励線形系の不安定性の判定条件を与えることを目標に研究活動を行ってきた。研究を進めるうえで重視したのが、2つの解析方法、リヤプノフの直接法と相平面解析を組み合わせることで、線形変換等を使用しない新たな解析方法を確立できるかどうかであった。当該研究では、具体的に一般解を求めることができる2次元非自励線形系の解の挙動を調べることや、数式処理ソフトで解の軌道を視覚化することで、新解析方法を確立する手掛かりを得た。これがきっかけで、リヤプノフの直接法と相平面解析を組み合わせた証明方法を確立することに成功し、2次元非自励線形系の零解の指数漸近安定性や非指数漸近安定性の定理を得るに至った。得られた成果は3編の学術論文に既に掲載されている。今後は、平成23年度に得た成果を吟味し、より適用範囲の広い方程式系へ拡張する。さらに、その成果を制御工学、流体力学、生態学などに現れる具体的な数理モデルに応用し、それぞれの不安定現象を数学的に解明することも本研究の責務であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は2次元非自励系の不安定性理論の構築を目的とし、平成23年度は線形系に対する非指数漸近安定性を考察した。具体的には、2次元線形系の零解が指数漸近安定でないための十分条件を与えることが当該年度の目標であった。研究開始当初は、不安定性と相対する性質である安定性の状況を十分に調査することが不安定性に関する情報を得る近道であると考えた。そこで、まず2次元線形系の零解が指数漸近安定であるための十分条件を考察し、不安定性を証明するうえでも重要な役割を果たすと考えられているリヤプノフの直接法と相平面解析を吟味することを行った。この考察は予想以上の発展を見せ、3編の学術論文として結実した。これら3編の学術論文中には、いくつか零解が指数漸近安定でない2次元線形系の具体例を挙げており、2次元線形系の零解が指数漸近安定でない状態になるためにどのような仮定が必要であるかについて、不安定性理論の構築に関するアイディアを得ることが出来た。また、当該2編の学術論文に用いた証明方法から、改めて不安定性の状況を証明するためにもリヤプノフの直接法と相平面解析の組み合わせが必要であることを認識した。平成23年度の後半には、2次元線形系の非指数漸近安定性の考察に着手し、上記2つの手法を併せることで、零解が指数漸近安定でないための十分条件を得るに至った。この成果は既に日本数学会2011年度秋季総合分科会等で口頭発表しており、現在この成果を学術論文にまとめている最中である。平成23年度の研究成果は、査読付学術論文2編、査読無学術論文1編、招待講演を含む口頭発表4回として実を結んだ。研究計画に掲げた目標を達成しており、研究の進展状況は良好と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成23年度で得られた2次元線形系の非指数漸近安定性に関する成果を学術論文としてまとめることが最優先事項となる。その後、2次元半分線形系を扱った学術論文との比較・検討を行うことで、2次元半分線形系及び2次元非線形系に対する新たな解析方法を開発し、より一般の非自励系に適用可能な不安定性理論を構築したい。もしも計画通りに研究が進展しないようであれば、次に示す対策を講じる。(1)問題を単純化して研究遂行:例えば、複数ある変数係数のうち何れかを定数に固定して、本質的にどの係数の情報が不安定性に影響を与えるのかを見極める。(2)リヤプノフの直接法と相平面解析の長所・短所の明確化:平成23年度の成果により、両解析手法に関する長所と短所はある程度明確化がなされてきたが、場合によっては、リヤプノフの直接法のみで証明を進めるか、もしくは相平面解析のみでアプローチする手段も必要と考える。異なる角度から証明方法を考察することで、それぞれの手法の長所、短所を洗い出し、何が証明に有用であるのかを明らかにする。(3)研究動向をよく知る研究者への相談:研究集会等に積極的に参加し、本研究分野の近隣のテーマで研究されている方々(研究相談者:島根大・杉江実郎教授、愛媛大・内藤学教授、大阪府立大・松永秀章准教授、山岡直人准教授、一関高専・片方江講師)と研究の交流をすることで、当該研究に関連するアイディアや情報を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、職務の関係上(高専1年生の担任であったため)残念ながら計画通りの出張が行いづらい状況にあった。このため、旅費が大幅に抑えられる結果となり「収支状況報告書」の「次年度使用額」の合計欄は0ではない。次年度は、研究代表者の所属先も変更となり、本年度に比べ出張しやすくなる予定である。したがって、次年度の研究費は主として国内外における出張・講演旅費に充てたい。出張・講演では、国内外の多くの研究者と研究交流を図ることで、当該研究に関わるアイディアや情報を得るだけでなく、他の研究分野との関わりから、本研究の現在の位置づけ及び今後の発展性をより明確にするという重要性がある。また、本研究自体もある研究集会で投げかけられたたった一言の質問がきっかけで開始した経緯もある。次に必要となるのが、書籍の充実である。他分野に比べて膨大な文献を有する微分方程式の研究において、学術論文を執筆する際、関連論文のみを挙げるだけでは説得力が弱く、受理されるのには時間がかかる。良い論文を書くためには安定性やその応用をはじめとする幅広い書籍が必要である。
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Research Products
(7 results)