2012 Fiscal Year Research-status Report
空間非一様パターンを形成する反応拡散系がもつ構造の体系的理解
Project/Area Number |
23740118
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
鈴木 香奈子 茨城大学, 理学部, 准教授 (10451519)
|
Keywords | 関数方程式論 / 反応拡散系 / 自己組織化 |
Research Abstract |
拡散しない物質(細胞など)の増加プロセスとその周りを拡散する化学物質の相互作用により生じるパターン形成を記述する反応拡散系について、(1)非定数定常解の存在と安定性、(2)解の時間大域的挙動、の解析に取り組んだ。 (1)では、昨年度までに具体的な発癌のメカニズムを記述する方程式系について得られていた結果を一般化することに取り組んだ。具体的には、ただ一つの拡散項をもつパターン形成を記述する反応拡散系について、どのような反応項の場合に非定数定常解が不安定化するかについて体系的に考察した。その結果、拡散しない物質に関する方程式の非線形項が自己増殖作用をもつならば、非定数定常解が不安定であるという結果を得た。自己増殖作用は拡散誘導不安定化と密接な関係があり、2つ以上の拡散する物質からなるパターン形成を記述する反応拡散系の多くは、拡散誘導不安定化に基づいている。今回の研究結果は、拡散がただ一つの場合には、拡散誘導不安定化のアイディアだけでは安定な非定数定常解の出現が期待できないことを示している。 実際の生物現象においては、拡散や物質の相互作用以外にも、細胞の伸び縮みや受動的な物質の移動なども重要なメカニズムになっており、拡散誘導不安定化以外のアイディアの必要性が数学的にも明らかになった今回の結果は、研究の新たな方向性を示す一つとして重要である。 (2)では、特に解の爆発について考察した。非線形項に関する体系的な理解の第一歩として、まずは方程式系にただ一つ含まれる拡散が非常に速いと仮定し、拡散係数を無限大とした極限方程式系を詳しく考察した。極限方程式系については、実際に爆発を誘発する初期値の構成方法を示すことができ、これは元の反応拡散系の爆発解のメカニズム解明に大変役立つ情報であると期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
拡散をただ一つしか持たないパターン形成を記述する反応拡散系について、「拡散が解のダイナミクスに与える影響の理解」が大いに進展した。まず、定常解の安定性に関しては、昨年度までに得られていた具体例に関する結果及び解析手法を一般化することができ、拡散がただ一つである場合の拡散誘導不安定化について、体系的な理解ができた。要約すると、拡散がただ一つである方程式系では、拡散誘導不安定化により非定数定常解も不安定することが分かった。 また、解のダイナミクスに関しては、拡散誘導爆発について、そのメカニズムの理解が深まった。反応拡散系における拡散誘導爆発については、これまでに特別な反応項の場合にいくつか結果はあるが、体系的な理解はされていない。本研究では、拡散がただ一つである反応拡散系の極限方程式系については、多くの例で解が爆発する初期値の構成が可能であり、解が有限時間で爆発するメカニズムの理解が可能であることが分かった。
|
Strategy for Future Research Activity |
拡散をただ一つしか持たないパターン形成を記述する反応拡散系について、その解のダイナミクス解明を進める。特に、拡散項を無限大とした極限方程式系について得られた拡散誘導爆発の知見を基に、元の反応拡散系での爆発解のダイナミクスについて考察する。また、解のダイナミクスの予測を立てるためにも、数値実験も重要な研究の一部として行う。 本研究は、A. Marciniak-Czochra (Heidelberg University)のグループと連携を密に行う。本研究により、反応拡散系を用いてパターン形成を説明するアイディアとして、拡散散誘導不安定化以外の必要性が示唆されるため、これまでの数学的結果とパターン形成という実際の現象を照らし合わせ、パターン形成における拡散の意味の考察、パターン形成に必要なメカニズムの推測を行い、新たな数理モデルの提唱へとつなげていく。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度は所属機関が変更となり出張の予定変更が生じたため、次年度に使用する研究費が生じた。この研究費は、次年度に旅費として使用する。 次年度は本研究課題の最終年度であるため、研究成果をまとめるため、そして研究成果発表のために、旅費を多く必要とする。共同研究者の一人であるA. Marciniak-Czochra (Heidelberg University)のグループと研究打合せを行うための海外旅費、もしくは招聘旅費として、500,000円必要とする。さらに、研究成果発表旅費として、200,000円必要とする。また、研究成果をまとめるための資料に研究費を使用する。
|
Research Products
(6 results)