2011 Fiscal Year Research-status Report
原始星円盤から原始惑星系円盤への化学的多様性の伝播を探る
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23740142
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂井 南美 東京大学, 大学院理学(系)研究科(研究院), 助教 (70533553)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 電波天文学 |
Research Abstract |
本研究では、太陽質量程度の原始星が形成される領域において、化学組成の特徴を原始星のごく近傍100 AU程度の領域まで追いかけ、それらが、将来、惑星系にどのようにもたらっされるかを明らかにすることを目的としている。これまで、申請者は高感度電波スペクトル線観測により、物理的に同じように見える星形成領域でも、その化学組成は必ずしも同じでないことを示してきた。化学組成は、現在の物理状態のみならず、過去の履歴を鋭敏に反映する。従って、化学組成の多様性は星誕生過程の多様性に直結する。本研究ではこの独創的視点を発展させ、より高感度、高空間分解能の観測から、化学組成の多様性とその進化を捉える。 23年度は、(1)研究代表者自身が発見したWarm Carbon Chain Chemistry (WCCC)を示すClass 0原始星のSMA を用いた高分解能観測、(2)少し進化が進んでClass I段階に近いWCCC天体であるIRAS15398-3359のALMA部分運用での観測、(3)化学的多様性と周辺環境との関連、の3点を目標として研究を進めた。(1)については、SMAの感度限界まで挑戦する観測を行ったが、目標を達成するには感度が十分でないことがわかった。そこで、(2)とともに、ALMAの部分運用(Cycle 0)への提案を行い、10倍近くもの競争を勝ち抜いて両者のプログラムとも観測時間を確保した。(3)については、ドイツのMPIfR 100 m望遠鏡を用いてCH 分子のスペクトル線観測を行い、WCCC天体が存在するおうし座のHCL2領域に対して、希薄な分子雲から分子雲コアが形成される様子を捉えた。これは、WCCCが起こるための必要条件を考える上で大きな手掛かりになると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度は、WCCC天体における炭素鎖分子(CCH)の分布に着目して研究を進めた。これまでのPdBIによる観測で、CCHなどの炭素鎖分子は原始星から500 AU程度以下の領域で存在量が減少している兆候が見られていた。それは、原始星円盤と同等のサイズであることから、原始星円盤の形成とそれに伴う化学組成の変化を示している可能性がある。しかし、PdBIの観測では分解能が3"程度(420 AU程度)なので、その詳細は不明であった。そこで、SMAを用いて1"の分解能での観測を試みたが、感度が実質的に十分でなく、分布を明らかにするに至らなかった。 そこで、SMAよりも遥かに高い感度をもつALMAの初期運用に、2つのWCCC天体、L1527とIRAS 15398-3359、の観測を提案した。これまでの当該分野での実績を最大限に利用し、また、フランス、デンマークのグループとの国際協力を組織し、強力な提案を準備した。その結果、この2件の観測提案は10倍の競争率を乗り越えて採択された。しかし、ALMAでの観測は当初の観測所のアナウンスよりも著しく遅れており、現在、観測待機の状況にある。 一方、MPIfR 100 m望遠鏡でCH分子の観測を行ったところ、WCCC天体であるL1527が存在するHCL2は、希薄な分子雲から分子雲コアが形成されつつある領域であることが示された。水素分子密度が102 -103 cm-3程度で化学的に若い領域が、分子雲コアを取り巻くように存在しており、希薄な分子雲から即座に星形成が起こっていることを示唆している。これはWCCCと周辺環境との関係を考える上で、非常に大きな手掛かりになると考えている。 上記のように、ALMAの観測時間を確保するなど、研究は順調に進行している。観測の遅れはあるが、24年度に回復し、初期の成果を挙げられるものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2つのWCCC天体、L1527およびIRAS 15398-3359、に対するALMAのCycle 0の運用は24年度中に行われる見通しである。すでに観測計画を提出してあり、観測所において割り当てを待っている状況である。これらにより、CCHの分布のみならず、CH3OHのような飽和有機分子の分布も詳細に明らかになるであろう。原始星近傍の数100 AUの領域での化学組成分布の特徴を初めて捉えることができる。このように原始星近傍の化学組成を理解することは、Class I、Class IIへの進化の方向性を見極めるという点でも重要な意義を持つ。WCCC天体で見られる炭素鎖分子がどのように原始惑星系円盤にもたらされるかについての大きなヒントが、そこから得られると期待している。 一方で、実際に進化の進んだClass I, Class II天体における化学組成の観測も重要である。すでに、研究代表者はClass I段階にあるWCCC天体の候補を発見している。この天体をALMAによって詳細に観測し、上記の結果と比較することにより、WCCC 天体のClass 0 からClass Iへの進化を明らかにできると考えられる。そのために、7月に行われる第二回のALMA観測公募(Cycle 1)に向けて、観測提案の準備に万全を期したい。Cycle 1では観測感度がCycle 0に比べて2倍以上向上する見込みなので、Class I天体の原始星円盤の化学組成を十分捉えることができるであろう。それは、Class IIへの進化の兆候を捉えることにもつながる。 これらを総合して、星形成から惑星系形成に至る化学的多様性の進化の描像を描き出し、複数の論文として出版する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ALMAによる観測成果が出てくるので、その成果の国際会議での発表や、研究打ち合わせのために3回程度の海外出張を予定している。L1527, IRAS 15398-3359の観測は、研究代表者が主導するものの、それぞれフランス、デンマークのグループとの国際共同なので、解析結果を直接会って議論することが必要である。これまでも、このような打ち合わせが研究進展やとりまとめに非常に役立った経験をもっており、今後も緊密な連携を図りたい。 また、パソコンとその周辺機器や関連ソフトウエアなどを研究推進のために購入することを考えている。
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Research Products
(8 results)