2012 Fiscal Year Research-status Report
多視線分光法によるマゼラニック・ブリッジ内部構造の解明
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23740148
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
三澤 透 信州大学, 全学教育機構, 講師 (60513447)
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Keywords | マゼラニック・ブリッジ / クェーサー吸収線 / 国際情報交流(アメリカ) |
Research Abstract |
銀河系近傍の矮小銀河である大マゼラン雲(LMC)と小マゼラン雲(SMC)は、マゼラニック・ブリッジ(MB)とよばれるガスの連結構造で結ばれている。MBはLMC/SMCの力学的相互作用で作られたと考えられているため、その起源を探ることは大小マゼラン雲の歴史を紐解くうえで不可欠である。MBの背後に存在する複数の活動銀河核(AGN)を背景光源として、MB内部のガスの物理状態、および化学組成の解明を試みることが本研究の目的である。 すでにVLT/UVESによって取得されている7つのAGNの可視高分散スペクトル(R~40,000)に加えて、HST/COSによる紫外高分散分光観測(R~20,000)を十分なS/N比が見込める3天体に対して行った。前者はCa II H, K吸収線、Na I D1, D2吸収線の検出に用いられ、ダスト量の評価に必要な情報を与える。一方、後者は紫外域で強い吸収線をもつO I, Fe II, Si II, C II, Si IV, C IV などの検出が見込めるため、Cloudyを用いた光電離モデルの適用が可能である。視線方向による明らかな違いが存在することをすでに確認しており、遠方宇宙で検出されるDLAの対応物とも目されるMBが、極めて複雑な内部構造を持つことが徐々に明らかになっている。 可視分光データの解析は完了しているが、紫外分光データについてはデータ解析に通常とは異なる手続きが必要であることが分かった。具体的にはスペクトルの波長較正の精度に問題がある。データ解析に詳しいウィスコンシン大学の研究グループの協力により、間もなく解決される見込みである。なお、このグループは、LMC/SMCの相互作用によって作られたマゼラニック・ストリームに対して我々と同様な研究を行っているため、サイエンスに関しても、共著論文および学会での共同発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
VLT/UVESで取得した可視高分散スペクトル(7天体、内2天体はS/N比が不十分)、HST/COSで取得した紫外高分散スペクトル(3天体)、および、すでに我々のグループで過去に観測済みのHST/STISによる紫外高分散スペクトル(1天体)を用いた、多波長吸収線によるマゼラニック・ブリッジ(MB)に対する多視線分光観測の予備結果を、国際研究会「The Magellanic System: In Perspective」で報告した。現在までに提案されている3つのMB形成シナリオ(LMC/SMC相互作用時におけるSMCからのガスの剥ぎ取り、SMCの銀河風による重元素汚染、局所的な星形成活動にともなう重元素汚染)の優劣を決めるのは最終年度に譲ることになるが、少なくともMB内部における元素組成の非一様性がみられることは疑いがない。このためMBはSMCからのガスの剥ぎ取りだけで説明できるような単純なものではないことは明らかである。今後はウィスコンシン大学の研究グループとの共同研究により、マゼラニック・ストリームとの比較も行う予定である。 更に今年度は、本研究の観測手法(背景AGNを用いた単独天体の多視線分光観測)を遠方宇宙に応用したものとして、重力レンズ効果を受けたクェーサーを3つの視線で観測した結果を専門誌で報告した。具体的にはクェーサーから噴き出すアウトフローガスを多視線方向から捉える試みである。このような多視線分光観測は、天体の遠近にかかわらず30メートル級望遠鏡時代の主要テーマになりうるため、今から観測・解析手法を磨くことが肝要であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
HST/COSの最終的なデータ解析結果を待ち、Cloudyによる光電離モデルに取り掛かる。光電離モデルから得られる様々な物理量(金属量、電離状態、ガス密度、温度など)の3次元分布の再現を目指す。同様の解析を、マゼラニック・ブリッジだけでなく、マゼラニック・ストリームに対しても行い、大小マゼラン雲の形成過程をよりスケールを広げて解明する。30メートル級望遠鏡時代を見据え、他天体に対する多視線分光観測の可能性についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初H24年度中に行う予定であったCloudyによる光電離モデルは、多波長高分散分光データ(特に紫外分光データ)の確実な1次処理を待ってから適用することにしたため、それに伴う謝金を翌年度に繰り越すことにした。その他、共同研究者との研究打ち合わせのための旅費、および国内外の学会・研究会に参加し研究発表を行うための旅費を計上する。結果の考察に有用な書籍、国際研究会集録などを購入し、また学術論文出版に必要な費用も計上する。必要に応じて、パソコン関係の消耗品などを購入する。
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