2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740178
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
奥山 和美 信州大学, 理学部, 准教授 (70447720)
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Keywords | ABJM模型 / M理論 / インスタントン |
Research Abstract |
今年度は昨年度に引き続き、ABJM模型の分配関数の厳密計算と、それに基づくインスタントン補正の解析を行った。3次元球面上のABJM理論の分配関数は超対称性の固定点への局所化の手法により行列模型に簡約することができる。しかしながらこの行列積分は複雑な多重積分であるため、厳密に計算することは難しい。私は名古屋大学の森山氏、DESYの初田氏との共同研究で、この積分を厳密に計算する手法を開発し、チャーンサイモンズ・レベルが1,2,3,4,6の場合に行列のサイズがそれぞれ44,20,18,16,14まで分配関数を厳密に計算することに成功した。 さらに、この結果を用いてABJM模型のグランドポテンシャルに対するインスタントン補正を詳しく解析した。この補正には世界面のインスタントンとD2ブレーンのインスタントンの2種類が存在する。世界面のインスタントン補正は局所P1xP1上のトポロジカル弦理論との対応から結果が知られているが、D2ブレーンのインスタントンについては、今までは厳密に計算する方法が知られておらず、全く新しい結果である。 世界面のインスタントンの係数はレベルがある有理数のときに発散してしまうが、分配関数自体はこのときも有限である。我々はこの発散がD2ブレーンにより相殺されていると考え、この条件から逆にD2ブレーンのインスタントンの関数形を決めることに成功した。また、より一般に世界面とD2ブレーンのインスタントンの束縛状態も存在すると予想し、その効果は結局ABJMの化学ポテンシャルの再定義により吸収できることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では超弦理論における時空の量子的な構造の解明を目標としている。AdS/CFT対応あるいはホログラフィー原理は、量子重力を考える上でもっとも重要な概念であり、ABJM模型はこの対応を通じてAdS背景時空におけるM理論の量子的な振る舞いを記述している。そのため、この模型を詳細に調べることは弦の結合定数が小さくない場合のIIA型超弦理論、そしてM理論の量子論を調べる上で非常に重要なステップであると考えられる。私と共同研究者によるここ数年の研究によって、ABJM模型の非摂動効果の理解が飛躍的に進展した。ここで得られた知見、特に世界面の寄与とブレーンの相殺機構は、弦理論に一般的に成り立つ性質であると期待され、弦理論の非摂動的な定式化への大きな足がかりを与えると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もABJM模型の非摂動効果の研究を今年度に引き続き行う予定である。現在二つのテーマで研究を行っている。 一つ目は、ABJM模型における1/2 BPS ウィルソンループの期待値の厳密計算である。この量については摂動部分が先行研究により調べられている。これを厳密に計算することにより非摂動的な補正を調べる予定である。また、様々な表現に属するウィルソンループにこの計算を拡張することを試みる。 二つ目は、ABJM模型に現れるD2ブレーンのインスタントン補正の系統的な導出とその物理的な理解を試みる。世界面のインスタントンについてはトポロジカル弦理論との対応が知られているが、D2ブレーンのインスタントンについても同様の理解が可能であると考えている。いわゆるrefined topological stringからこの二種類のインスタントン補正を統一的に理解することを目指している。 上記の二つの研究は、引き続き名古屋大学の森山氏、DESYの初田氏との共同研究で行う。必要に応じて、他の方々にも新たに共同研究者に加わってもらいながら、強力な研究グループを構成して研究を推進していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使途としては、すべて旅費に充てることを考えている。研究を進めるに当たって、国内で行われる様々な研究集会に参加し、そこで他大学の研究者と交流しながら研究のアイデアについて意見を交換し合うことは、特に理論物理の分野においては必要不可欠である。そのため、今年度は夏の京都大学基礎物理研究所での研究会などに参加する予定である。また、この分野の研究は非常に国際的であり、海外のコンファレンスに参加し最近の研究の発展についての情報を得ることも研究を進める上で重要である。8月にオランダ・ユトレヒトにおいて行われる可積分系の国際会議に参加し、参加者と研究についての議論をすることを予定している。 前年度の海外出張において、当初計画で見込んだ航空運賃より安くすんだため、次年度使用額が生じた。
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