2011 Fiscal Year Research-status Report
相対論的回転星の静的な不安定性とその非線形動力学的性質の探求
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23740201
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
西條 統之 立教大学, 理学部, 助教 (40510988)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 相対論的回転星 / 流体動力学 / 航空工学的な近似 / 静的な時間スケール / 重力波放射 / 非線形動力学 |
Research Abstract |
「相対論的回転星の静的な不安定性の動力学」の計算手法の開発,およびその検証を実施した.本研究では重力波放射や粘性など系の散逸に付随する変化の時間スケールを主たる研究対象にしているため,動力学的手法によりその非線形効果に着目する場合,それより極端に短い時間スケール(本研究では特に音波のスケール)の変化を殺す近似手法を具体的に確立する必要性がある.相対論的回転星の動力学において,非線形項を含む形で音波の自由度を殺す近似手法を構築し,ニュートン重力場中における空間3次元の数値シミュレーションの結果で,これまでの研究より最低10-100倍程度長い時間進化のスケールの描像が解明可能なことを示した.数値解析において陽解法による時間進化で系の音波の自由度を殺すため,星の回転座標系上で非線形項を含む航空工学的な近似を提唱し,これを課した.これはエンタルピーの時間進化を数値的に解く換わりに圧力ポアッソン方程式を各時間ステップごとに数値的に解き,音波の伝搬の自由度を殺している.なお今回の近似を施した方程式系は,非圧縮性流体における数値計算手法(SMAC法)と非常に類似しているため,その数値計算手法をはじめて回転星の音波の時間スケールを越えた動力学に適用して研究を遂行した.本研究で提唱した近似手法が相対論的回転星の動力学において,音波を越えた時間スケールで適用可能であることを示すため,まずニュートン重力場中で重力波放射の反作用のポテンシャルを取り入れ,かつ非線形項も含む航空工学的な近似を施し,対称性を課さない3次元流体動力学の数値計算コードを開発した.次にその数値計算コードの検証として,回転星の平衡解に最も支配的な不安定rモードの摂動を加えて系の時間進化を数値的に解析し,典型的な振動数がほぼ最も不安定なrモードのものと一致することを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は「相対論的回転星の静的な不安定性の動力学」の計算手法の開発,およびrモード不安定性を用いた検証を研究実施計画に挙げた.計算手法の開発に関しては,重力波輻射の効果を取り入れ,音波の伝搬の自由度を殺す航空工学的な近似を施した定式化において,重力の理論をニュートン重力にしたものとコンフォーマル・フラット重力理論(ポスト・ニュートン重力理論を包合)にしたものに,その基礎方程式系において本質的に大きな違いはみられなかった.したがってニュートン重力における数値計算手法が完成すれば,容易に相対論的重力の場合にも拡張可能であることを示した.不安定rモードを用いた検証に関して,具体的な数値計算コードの開発偽以降したのは本年度はニュートン重力の場合のみである.不安定rモードの特徴的な振動数を,開発した3次元流体動力学の数値計算コードを用いて時間進化を数値的に解析することにより,その再現に成功し,不安定性の成長する時間スケールもほぼ再現することに成功した.これより,ニュートン重力場中では平成24年度の実施計画である「rモード不安定性の非線形動力学的性質の解明」を本年度に開発した数値計算コードを用いて直ちに研究が可能である.しかしながら,相対論的重力の場合の「rモード不安定性の非線形動力学的性質の解明」の研究を開始するためには,その数値計算コードの開発および検証が必要である.相対論的重力場中の数値計算コードはニュートン重力場中の数値計算コードと数値計算スキームは本質的には同じであるため拡張は容易であると予想されるが,この相対論的重力場中の数値計算コード開発および検証分が研究計画よりも遅れている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は「相対論的回転星の静的な不安定性の動力学」の計算手法の開発に成功し,その検証に関してはニュートン重力場中でのみ不安定rモードの特徴的な振動数,時間スケールの抽出に成功した.これより,まず先に「ニュートン重力場中における回転星のrモード不安定性の非線形動力学的性質の解明」を実施する.昨年度交付申請書記載の通り,まず可能な限り小さな摂動や重力波放射反作用ポテンシャルの増幅を用いて回転星の非線形rモードの飽和振幅を求め,研究成果を学術論文の形でまとめる.次に飽和振幅を初期条件として動的な時間スケール,静的な時間スケール両方の時間進化を研究し,当該分野におけるこれまでの理解と比較,検討する.また星の回転角速度のパターンがrモード不安定性の発生によりどの最終状態に落ち着くかを特定する.さらに乱流カスケード発生の可能性を研究する.最後にこの不安定性から放出される重力波の性質の探求を,動的な,静的な時間スケールによる動力学を用いて特徴的な振動数や振幅の変遷を研究する.次にその数値計算コードを相対論的重力に拡張し,不安定rモードによる検証を行う.「ニュートン重力場中における回転星のrモード不安定性の非線形動力学的性質の解明」の研究成果を踏まえて,まず相対論的重力の場合の数値計算コードの開発,およびその検証を行う.次に新たに開発した数値計算コードを用いて研究を実施し,重力の非線形性を考慮した際にその不安定性の動力学的な描像にニュートン重力場中の場合と比較して質的な違いが現れるかどうかの検証を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度前半は東日本大震災の復興関連予算の関係上,タイムリーな研究費の支出に制限が課せられた.また計算ノード一式の納入価格および設置費用を納入業者が多少割り引いた.主として以上2点により,本年度は繰越金が発生した.本年度は昨年度の交付申請書に記載した,書籍等を購入する「物品費」,国内外の学会,研究会,共同研究に参加するための「旅費」,セミナー等による専門知識の提供に対する「謝金」,研究遂行上必要な消耗品のための「その他」,の金額を使用予定である.本年度は当該分野の国際会議が比較的多く開催される予定のため,主に今回発生した繰越金を,それらに参加し,発表し,議論を通して当該分野の現状,進展を把握し,当該研究における新たな研究の方向性の模索を行う「旅費」に使用予定である.
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Research Products
(2 results)