2012 Fiscal Year Research-status Report
耐強放射線・耐強磁場性能を持った広帯域データ通信エレクトロニクスの研究
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23740220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 岳雄 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (40353370)
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Keywords | 素粒子実験 |
Research Abstract |
これまでの研究によって、データ通信エレクトロニクスの強磁場耐性・放射線耐性を考えた場合、とくに課題となるのが光トランシーバーの放射線耐性であることが分かった。そして、民生品の光トランシーバーを各種そろえて放射線照射実験をし、放射線耐性の高い光トランシーバーを洗い出す研究を行った結果、AVAGO社製の8.5Gbpsの通信速度をもつ製品が相対的にもっとも放射線耐性が高いことまでがわかった。 本年度は、この製品に集中的に放射線を浴びせ、その製品の放射線耐性を定量化することで、その製品が具体的な高エネルギー加速器実験の一つであるBelleII実験での使用に耐えうるかの検証実験を行った。 まず東京工業大学のγ線照射実験施設を使用し、当該製品が破壊されるまでγ線照射を行った。その結果、すくなくとも800Gyの積分γ線量には耐えることがわかった。これはBelleII実験の環境γ線量換算で27年分に相当し、10年を実験期間の目安とするBelleII実験にとっては十分なものであることがわかった。 ついで神戸大学の中性子照射実験施設を使用し、当該製品に中性子線を照射する実験を行った。その結果、すくなくとも環境中性子線量換算で8.9年分の中性子線量に耐えることが判明した。なお本年度内の中性子線の照射実験も含め、これまでの中性子線照射実験では光トランシーバーを破壊することができなかったので、光トランシーバーは中性子線照射に対して十分な耐性を持っていることが暗示される。 以上から、我々は「BelleII実験を視野に入れた場合に十分な環境放射線耐性を持った光トランシーバーとしてAVAGO社製8.5Gbpsの製品」を同定した。 BelleII実験の環境下で光トランシーバーの放射線耐性をさらに統計的に詳細に研究するため、BelleII実験向けに光トランシーバーを180個購入した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究の積み重ねによって、BelleII実験を視野に入れた場合、(1)FPGAはγ線耐性が十分であること・中性子線耐性は十分ではないが工夫によってエラー状態に陥ったFPGAを回復することは可能なこと、(2)光トランシーバーはγ線耐性は十分で中性子線耐性もおそらく十分であること、(3)DC-DCコンバータもγ線耐性が十分であることが判明した。すなわち、当初から懸念されていた放射線耐性に不安のある部品について、放射線耐性に関する検証実験を行い、すべてについて定量的な耐性を与えることができた。これは当初の研究目的の達成と比較して十分に進捗しているといえる。 他方、FPGA内で放射線耐性のある通信プロトコルの開発にやや遅れが出ている。ただし、放射線等によるデータエラーの自己修復機能をもった通信プロトコルはAURORA/RocketIO等で商業的に実現されており、通信プロトコルこれを採用した場合、独自開発をする必要がなくなるので開発の遅れは一気に取り戻せる。 以上から、研究内容全般の進捗状況の平均をとって「おおむね順調に進展している」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、まず、前年度に大量発注した光トランシーバーの一部を抜き取り、γ線照射実験をして、光トランシーバーのγ線耐性に関する最終確認をする。これは光トランシーバーが、製品ごとに個別のγ線耐性値を持っている理由を我々が知らないためである。理由が不明なため、製品ロットがかわっただけでも放射線耐性が変化してもおかしくないので、前年度の製品発注ではすべての製品で同一の製品ロットとなるようにロット指定をして発注を行った。本実験により、前年度に大量発注した光トランシーバーにもこれまでの製品と同じように放射線耐性があることを確認する。 ついで放射線耐性のある通信プロトコルの追究を行う。まず、既存のAURORA/RocketIO等の有効性について研究するが、これとならび、JAXAの研究者から「人工衛星内のデータ通信用にTCPを話せるFPGA用ファームウェア」の存在を教えてもらったので、当該ファームウェアの有用性についても研究する。人工衛星内は宇宙線により劣悪な放射線環境になっていることが容易にそうぞうできるため、本ファームウェアは「放射線耐性のある通信プロトコル」として有望視できる上、TCPであるためとくにデータの受信側の設計は極めて簡単になるメリットもある。 そして平成26年度をめどに、これまでの研究成果を組み合わせて「強磁場・放射線耐性のあるデータ通信エレクトロニクス」を提案する(ただし、さまざまな部品について、磁場耐性は早い段階で確認が取れているので磁場耐性についてはことさら追究しない)とともに、研究成果を発表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「人工衛星内のデータ通信用にTCPを話せるFPGA用ファームウェア」の価格が1FPGA当たり約1万円、当該FPGAファームウェアの評価用キットが15万円と見積もられているので、これらを購入する(ファームウェアはFPGAの個数だけ購入するので、実験に必要な分だけ購入する)。 ほかに、本研究がBelleII実験をひとつのモデルとしていることから、BelleII実験のコラボレーション会議に参加し、研究の進捗に関する報告を行うための旅費を支出する。 また、強磁場・放射線耐性のあるデータ通信エレクトロニクスの開発にも費用を投じる。
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