2013 Fiscal Year Research-status Report
耐強放射線・耐強磁場性能を持った広帯域データ通信エレクトロニクスの研究
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23740220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 岳雄 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (40353370)
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Keywords | 素粒子実験 / 放射線耐性 / 中性子線 / γ線 / 光トランシーバー / FPGA |
Research Abstract |
平成24年度までの研究によって、特定の機種の光トランシーバー(光ファイバーでデータ通信をするときのファイバーの端点となるコネクタモジュール)ならばγ線耐性が十分で通信機能が破壊されないことが明らかとなっていた(放射線環境として国内最大規模の高エネルギー加速器実験計画である Belle II実験を想定)。しかし、そもそもγ線によって光トランシーバーの内部回路が破壊される機序が不明であり、実験に使ったその光トランシーバーが特別に高いγ線耐性を示すことも心配された。そこで平成25年度では、ロット指定で大量購入されたこの機種の光トランシーバーを一部抜き取り、これにγ線を照射してγ線耐性を調べる実験を行った。その結果、少なくともこのロットならばγ線耐性が十分であることが判明した(抜き取り破壊試験であるため確率的な議論しかできない)。 他方、平成24年度中に、γ線を照射した光トランシーバーでも数か月程度の未使用期間を経ると通信機能が復活する、という興味深い現象を我々は偶然発見した。そこでこの案件に対しても系統的に実験をした。照射実験により通信機能が完全破壊された光トランシーバーを、数時間ないし3日間、通常空間に保管して復活性を調査した。その結果復活は確認できず、この程度の期間では復活しないことが判明した。 他方、「通常空間に数か月ほど置くと復活する」という報告は研究代表者・研究協力者以外からも受けている。これは機序は不明ながらγ線で破壊されてしまったように見える光トランシーバーでもたとえば1年放置するとまた使えるようになることを意味している(ただし、平成24年度の研究結果から積分γ線被曝量と完全破壊までの時間との間には関連性があるため、再利用のためには通常空間に置くことが望ましい)。 光トランシーバーの有効再利用の観点から上記案件の研究を平成26年度に実施することを計画する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内最大規模の高エネルギー加速器実験計画であるBelle II実験において、FPGAの放射線耐性を定量化したこと(γ線による影響はほぼないことと、中性子線によるデータエラーレートを評価できたこと)、および放射線耐性の高い光トランシーバーの機種を同定し、少なくともその中で同一ロットを指定して調達すれば、ほぼ確実に光トランシーバーの放射線耐性問題が起きないことを確認したこと、によりおおむね順調に進捗していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、放射線被曝によるデータ通信路上のデータ破壊を心配し、そのための放射線耐性の高いエレクトロニクスやデータ破壊に対する復旧アルゴリズムを開発する計画であった。しかし、FPGA・光トランシーバーとも実用上の放射線耐性を有していることからこの部分に基金を投じる必要性が相対的に低下した(なお本研究ではデータ破壊に対する復旧アルゴリズム自身は開発していないが、FPGAにもともと備わっているデータ復旧機能が正常に動作することは確認している。また、壊滅的にデータが破壊されFPGAの復旧機能では復旧しきれない事象の発生率も確認している。) 本研究では、「研究実績の概要欄」に示した通り、「光トランシーバーを通常空間においたときの復活」という興味深く予想外な事象が発生しており、放射線耐性をもったエレクトロニクス部品の性質の追究としてこちらの研究の比率を相対的に高めるべきであると判断する。放射線で破壊された光トランシーバーは平成25年度の実験ですでに存在しているため、これを使って通常空間でデータエラーがどれほど発生するか、すなわち、一度完全破壊された光トランシーバーを通常空間に長期間保管した場合に、どれほど再利用できるようになるかを評価する。なお、本研究は平成26年度が研究の最終年度であるため、研究成果の積極的な報告も行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、放射線耐性を持ったエレクトロニクスを開発する予定であったが、すでに述べた通り、放射線耐性が低いと心配された部品であっても、たとえば国内最大規模の高エネルギー加速器実験計画(Belle II実験)では十分な放射線耐性を示すことが本研究により明らかとなった。このため、エレクトロニクス開発の必要性が相対的に低下し、余剰金が発生した。 平成25年度までの研究によって、予想外・偶然に「光トランシーバーには長期保存によって復活してしまう謎」が存在することが判明した。本件について平成26年度に系統的に研究を行い、もって光トランシーバーの再利用、同種実験の実験費用削減の提言を行える程度の研究を実施する。 具体的には、既存のデータ読み出しシステムに平成25年度内の実験で完全破壊された光トランシーバーを接続し、これを放射線のない通常空間に設置してデータエラーの発生率を時間の関数として計測する研究を行う。データエラーが時間によらず十分低い値を続けるのであれば、通常空間内ならば再利用可能な光トランシーバーに復活すると結論づける。
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