2014 Fiscal Year Research-status Report
耐強放射線・耐強磁場性能を持った広帯域データ通信エレクトロニクスの研究
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23740220
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
樋口 岳雄 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (40353370)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 素粒子物理学実験 / 放射線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、光トランシーバーなどの高エネルギー素粒子実験用のデータ転送用装置の放射線耐性や強磁場耐性を明らかにすることを目的としていたが、これらが計画年度中に明らかになったことを踏まえて、高エネルギー素粒子実験用の粒子検出器の読み出しASICや検出器そのものの放射線耐性を研究するように研究課題を発展させた。高エネルギー素粒子実験では、加速器による粒子衝突点の周辺が放射線強度が強い。そこで、衝突点付近によく設置される検出器のモデルとして半導体型崩壊点検出器を選定し、これに高エネルギー電子ビームを照射することで読み出しASICや半導体センサーの性能劣化を調べることとした。とくに、国内の代表的な高エネルギー素粒子実験であるBelle IIを想定し、その中の半導体型崩壊点検出器を念頭においた。 平成26年度は、他の研究者や大学院生らと協力して照射実験のための半導体型検出器の製作を集中的に行った。まず、組立工程そのものが成立していることを確認する準備として、小型検出器を製作し完成させた。ここではセンサーと読み出しASICや読みだし基板との電気的結線法・センサーの電気的動作確認法などを確立した。次いでセンサーの精密配列方法などを確立して、複数のセンサーからなるBelle II実験用の半導体型崩壊点検出器相当の大きさ・形状となる本格的な予備検出器も完成させた。 さらに、ビーム試験の準備として、小型検出器や予備検出器のセンサー部にストロンチウム90からの弱いβ線を照射して信号を読み出し、ほぼ期待される大きさの信号電荷がセンサー内の照射位置に生成されることを確認した。 これらをもってビーム試験の準備として十分な研究成果をあげることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、光トランシーバーなど高エネルギー素粒子実験のためのデータ収集用機材の放射線耐性と強磁場耐性を定量化することを目的としていたが、速やかに新しい知見が得られたため、実験用の粒子検出器自体の耐性も視野に研究を発展させているところである。研究実績の概要に示した通り、粒子検出器のモデルとしてBelle II実験用の半導体型粒子検出器を選定している。 しかし、この検出器は、(1)粒子検出の立体角を稼ぐため「への字構造」をとっていること、および(2)検出器の読み出しにおける容量性ノイズを低減させるため読み出しラインが特殊な経路をえがいていること、から極めて複雑な構造となっており組立が困難である。そこで、(1)理論上の組立手順が矛盾なく成立していること、(2)組立における要素技術(接着・電気的結線・センサーの安全な取り扱いなど)が十分に確立していること、(3)組み立てられた検出器が電気的に期待通りの応答を示すこと、を順を追って確立することとした。 まず、検出器のプロトタイプとしてセンサーが1つだけからなる小型検出器を組み立てて完成させ、(1)と(2)が部分的に成立していることを確認した。 続いて、Belle II実験用の半導体型崩壊点検出器相当の大きさ・形状となる本格的な検出器の組立も行ってこれを完成させた上、β線照射試験も行って信号読み出しにも成功した。これらは、続いて計画しているビーム試験による放射線耐性試験の準備としてきわめて有意義な知見であり、大きな進捗である。 その一方で、他の研究の進捗との関連から、海外の研究機関で計画しているビーム試験自体の開始が遅れてしまったため、総合的に判断して標記のとおりの評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要に記述した通り、本研究課題では、今後はBelle II実験用の半導体型崩壊点検出器そのものおよび検出器の読み出しASICの放射線耐性を調べる。 まず2015年6月に、JAEAの高崎量子応用研究所において、検出器の組立に用いる接着剤にγ線を照射してその剥離強度の劣化具合を調べ、検出器の機械的な放射線耐性を評価する。また国内の陽子線もしくは中性子線照射施設にて半導体型崩壊点検出器のセンサーに粒子線を照射し、半導体の劣化として漏れ電流の増加を評価するほか、検出器の読み出しASICの劣化としてノイズの増加を評価する。 さらに、2016年初頭には、ドイツのDESYにて検出器に6GeV程度の高エネルギー電子線を照射し、高エネルギー素粒子実験における現実的な放射線環境下での半導体センサーの性能劣化の評価実験も行う。なお、性能を評価する指標としては、半導体型崩壊点検出器の本来用途である荷電粒子の通過位置の決定精度(通常は50um程度)の低下を用いる。 これらの実験のための検出器には、本年度に完成させた予備検出器、もしくは平成27年度に製作する高機能版の予備検出器(前者は一部の半導体センサーが電気的に故障しているが、後者はすべての半導体センサーが性能が低いながらも機能している)を用いる。 他の研究者らと協力し、本邦からドイツまで検出器を安全に輸送する機構や、データ収集のための制御系、荷電粒子の通過位置を決定するためのソフトウェアなども計画的に準備する。 とくに、ビーム試験の結果は放射線耐性のみならず現実的な検出器の電気的応答を追究する上で非常に重要な知見であるため、これらの研究成果は日本物理学会や国際会議で発表するほか、科学論文誌への投稿によって広く社会に還元する。
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Causes of Carryover |
一般に検出器の製作には部品と労力を費やすため、ひとつの検出器の製作にあっては複数の開発要素を盛り込む。半導体型崩壊点検出器の製作にあっては、その検出器の本来の目的である荷電粒子の通過位置の精密測定を実現するため、検出器の組立自体にも高い精度が求められる。この精度の追究に時間がかかった。また、ビーム試験には大きなコストがかかるため、複数の検出器が相乗りをして実験を行う。同時に並行して行う他の研究機関の検出器の製作状況がより予定よりも遅れてしまったことも理由である。また、ドイツのDESYに検出器を輸送するための箱の設計が海外の研究者によっていたが、その製作にも遅れが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
放射線照射実験のための旅費(国内のγ線照射施設および陽子線または中性子線照射施設への出張各1回程度)とドイツのDESYで行うビーム試験のための旅費に使用する。また、ドイツでの実験については、粒子検出器の輸送のための箱および費用についても使用を検討する。また、日本物理学会や国際会議への参加旅費および参加登録費に使用する。 このほか、放射線照射試験およびビーム試験で使用するための少量の消耗品費(ネットワークケーブルなど)にも使用する。
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