2012 Fiscal Year Research-status Report
ドメインウォールフェルミオンによる超対称ヤンミルズ理論の動的シミュレーション
Project/Area Number |
23740227
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
ENDRES MICHAEL 独立行政法人理化学研究所, 初田量子ハドロン物理学研究室, 国際特別研究員 (80598160)
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Keywords | 多フェルミオン相関関数 / 符号問題 / 格子フェルミオン模型 / 超冷却気体 / 超対称行列模型 |
Research Abstract |
昨年度の研究成果は、格子場の理論の計算におけるいくつかの挑戦的問題に関するもので、主に、フェルミオンを含んだ少数多体系に対する計算アルゴリズムと解析手法の開発、それらを用いた解析からなる。実際に扱った理論は、量子色力学 (QCD)、また、超冷却フェルミ気体(ユニタリーフェルミオン)を記述する非相対論的共形場の理論である。ここで特定の理論に対して開発した技術は、今後より広い応用が期待される。 フェルミオン多体系の計算における問題の一つは「縮約問題」である。これは計算コストを粒子の数の階乗的として増やすため、実際に扱える粒子数に極めて強い制約を与える。この問題に対して我々は、計算コストを粒子数の多項式までに劇的に減らす全く新しいアルゴリズムを開発した。この研究は、原子核物理をQCDに基づいた第一原理シミュレーションから研究する際の大きな障害の一つを取り除いた成果と言える。 フェルミオンを含む系の数値実験における別の困難は、複素作用に起因する「符号問題」である。ここでは、空間1次元の非相対論的フェルミオン系に対して、その分配関数を「双対変数」を用いて表現することで、この問題を解くことに成功した。さらにこの格子定式化を用い、引力的な4体相互作用を持つ4成分フェルミ気体の系を解析した。この系はコンフォーマル不変な系を実現し、そこでは、系のエネルギーと自由フェルミオン系のエネルギーとの比(Bertschパラメタ-)が非自明な物理量となる。私は、このBertschパラメタ-を数値的に測定し、それが3次元のユニタリーフェルミオンにおけるものに1%の統計誤差内で一致していることを見いだした。この驚くべき一致は異なった次元の共形場の理論間の双対性を示唆しており大変興味深い。 これら以外の成果としては、超対称行列模型における高精度の数値実験から超対称性の自発的な破れを検証したものが挙げられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度得られた研究成果、「フェルミオン縮約問題」の解決、1次元フェルミオン系の「符号問題」を避けた格子定式化、これを用いた1次元と3次元のコンフォーマルな系の間の不思議な一致、などはいずれも極めて非自明で重要な結果であると自負しており、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も、今年度に引き続き3次元以下の強く相互作用するフェルミオン系の理論的・数値的研究を行う予定である。一つの目標は、1次元と3次元のユニタリーフェルミ気体の間の関係を追求し、今年度私が発見したBertschパラメタ-の両者での一致に対する根源的な説明を見いだすことである。この一致は両者が非相対論的な共形場の理論で記述されることに根ざしていると思われ、共形場の理論の間の双対性を示唆していると同時に、実用上も(1次元系は計算が容易なので)重要なものと思われる。 また、1次元のフェルミオン系に対して連続時間アルゴリズムを開発することにも興味がある。この方法はもしうまくいけば数値シミュレーションの効率を極めて改善し、Bertschパラメタ-をはじめとする普遍的パラメタ-の高精度の決定を可能にする。これは1次元と3次元のユニタリーフェルミオンの間の関係がはっきりした際にはより重要になると考える。また、こうしたアルゴリズムは、もう一つの普遍的な系、1次元の3成分フェルミ気体で原点に不純物があるもの、にも応用できるはずである。この系は1次元の4成分フェルミ気体のある極限で実現することもでき、私のこれまでの研究の自然な拡張となる。こうした研究は、また、異なった次元の普遍フェルミ気体の間の関係を理解する手がかりも与えると思われる。 別のテーマとしては、格子シミュレーションにおいて輸送係数を測定する新しい方法を追求してみたい。久保公式と実時間への解析接続を用いる通常の方法は数値的には大変厳しいものである。改良された方法の開発は、QCDやユニタリーフェルミオンのような非相対論的な系において極めて重要になると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の使用途は、研究情報収集および研究成果報告が中心となる。具体的には、いくつかの国際研究会・国際会議(Lattice 2013、XQCD 2013など)への参加と講演、台湾とMITへの訪問と研究情報収集、また、研究情報収集と共同研究のため、何人かの研究者を海外から招くこと、などを計画している。その他の経費は、主に専門書とコンピュータ関連用品となる。今年度の未使用額はこれらの使用途を念頭に置いたものである。
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