2012 Fiscal Year Research-status Report
光誘起相転移初期過程における超高速ダイナミクスの量子動力学的研究
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23740232
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
前島 展也 筑波大学, 数理物質系, 助教 (90390658)
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Keywords | 光誘起相転移 / 電子格子相互作用 / 強相関電子系 / モット絶縁体 |
Research Abstract |
本年度は主に、I. 1次元パイエルス・ハバード模型におけるポーラロン、ソリトン状態の光学応答に対する数値的解析、II. 2 軌道縮退ハバード模型における光励起状態のスピン・軌道相関に関する解析、の2点について研究を行った。 I. オンサイトクーロン斥力(U)の小さい1次元であるパイエルス物質、および、Uの大きいスピン・パイエルス物質に光照射を行うと、過渡的な光学吸収ピークが出現するが、その起源となる励起状態が共通のものなのか、Uと共に変化するのか等の点は不明なままであった。そこで単純な模型である1次元パイエルス・ハバード模型を用い、光照射直後に実現する状態の候補であるポーラロン・ソリトン状態における光学応答の解析を行った。その結果、Uの小さい領域で表れる2つの吸収ピークがUの大きい領域で融合すること、そしてUの大きい領域のみで表れる新奇な吸収ピークが存在することを明らかにした。 II. 近年、ペロブスカイト型遷移金属酸化物における光誘起現象に関する実験的研究が数多く行われている。そのような例の一つにバナジウム酸化物RVO3(R はY もしくは希土類)に対する研究がある。LaVO3 に対する実験では、光照射直後の反射率スペクトルにおける低エネルギー成分の増大などの過渡的変化が明らかにされたが、同物質の特徴である低温領域でのスピン・軌道秩序の変化については今まで明確に議論されていなかった。そこで2x2x2クラスター上の2軌道ハバード模型に対する厳密対角化計算を行い、光キャリアがドープされた状態では、支配的なスピン・軌道相関が基底状態のものとは全く異なることを明らかにした。この結果は光照射によるスピン・軌道秩序転移を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年に引き続き、スピン・パイエルス物質の光励起状態の解析に加え、この系を包含する、より一般的な模型に対して解析を行い、1次元強相関電子-格子結合系の光誘起現象に関する普遍的な知見を得ることができた。密度行列繰り込み群と格子自由度に対する断熱近似のハイブリッド法については、ほぼ完成し、ソリトン状態に関する解析はパラメータ領域によらずほぼ問題なく実行できる段階に達している。成果報告についても、1回の国際学会発表を実施し、学術論文も2稿出版済みである。 また、遷移金属酸化物に対する解析については、当初予定していた時間依存ハートリーフォック方程式に基づくものではなく、厳密対角化法を使ったものから実行している。これにより小規模系ではあるが、近似によらない、より信頼性の高い結果に基づく知見を蓄積することができる。成果報告についても、1回の学会発表を実施し、学術論文を現在準備中である。 系の時間発展を解析するためのプログラム開発については、時間依存密度行列繰り込み群のプログラムがほぼ完成しており平成25年度前半には数値的解析に着手する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
スピン・パイエルス物質や1次元有機導体などの1次元強相関電子-格子結合系において、光照射によって生成されたキャリアが格子と結合してポーラロンなどの各種準粒子を形成するまでの時間発展を、時間依存密度行列繰り込み群や厳密対角化などの数値的手法を用いて解析する。特に準粒子形成による過渡的光学応答の時間変化に関する知見を得る。更には、複数の1次元鎖が何らかの鎖間相互作用により結合している場合を想定して、鎖間平均場や断熱近似の範囲内で取り入れた計算を行い、準粒子形成プロセスに対する次元性効果の解析を行う。 また、遷移金属酸化物を念頭に置いた多軌道ハバード模型における光ドーピング効果については、研究の対象を電子状態が比較的単純なLaVO3からより複雑なYVO3へと広げる。厳密対角化のほか、時間依存ハートリーフォック方程式を使った解析も行う予定である。更には遷移金属酸化物系のハバード梯子系や無機スピン・パイエルス物質などにも対象を広げる。更に、マンガン酸化物を中心に観測されているパルスレーザー誘起の超高速コヒーレント振動現象の解析のため多軌道強相関電子および量子フォノン結合系に対する計算を行う。これについてはまず1次元2軌道系を手始めにして、より多軌道な系、および複雑なスピン秩序を持つ相へと解析を拡張していく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度には、当初支出予定であった学生の海外出張費等を在籍する大学からの補助金で賄えたため、40万円程度旅費支出が抑えられた。加えて、計算データの蓄積量が予想より少なかったためデータ保存用ストレージの購入を延期したこと、夏季の電力供給が安定していたため無停電電源装置購入を中止したこと、などの要因により、総計70万円程度の繰越金が発生した。H25年度には複数の国内・国際学会に参加して成果報告を行うための旅費を30万円計上するほか、追加でワークステーションを購入するための物品費を80万円計上する予定である。
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Research Products
(7 results)