2011 Fiscal Year Research-status Report
高分解能バルク敏感光電子分光によるd電子系化合物の電子相関と準粒子状態の研究
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23740244
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
山崎 篤志 甲南大学, 理工学部, 准教授 (50397775)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 光電子分光 / 鉄系超伝導体 |
Research Abstract |
2011年度には,もっともシンプルな構造を持つ鉄系超伝導体FeSeについて,極低エネルギー光電子分光実験および軟X線光吸収分光実験を行うと共に,その結果を理論計算と比較することで新たな知見を得た.具体的には,正方晶および六方晶FeSeにおいて得られた極低エネルギー励起光電子スペクトルに対して,バンド計算の自己エネルギー補正を行った1粒子励起スペクトルとの比較を行った.その結果,正方晶FeSeでは,これまで我々が軟X線領域での光電子分光実験と理論計算から見積もった繰り込み因子をそのまま適用できることが明らかとなった.これは正方晶FeSeの層状構造に起因しており,比較的表面電子構造に敏感なhv=40eV程度の励起光による光電子分光でもバルクを特徴付ける電子構造を検出可能であることを意味している.また,原子モデルおよびクラスターモデルによりFe 2p-3d吸収スペクトルを理論的に求め,実験結果と比較することで,六方晶FeSeでは結晶場を考慮した原子モデル計算により実験スペクトルの形状を再現できるのに対して,正方晶FeSeでは配位子からの電荷移動を考慮しなければスペクトル形状を再現できないことを明らかにした.これは,六方晶FeSeではFe3d電子の局在性が高く,正方晶FeSeではSe原子の4p軌道とFe原子の3d軌道の混成がより重要になっていることを示している. また,おなじFeとSeを含む超伝導体であるにも関わらず,母体が絶縁体であるTlFe2Se2について軟X線,硬X線光電子分光実験を実施し,内殻スペクトルに対して同様にクラスターモデル計算による解析を行った.これについても,現在さらなる解析を進めている.また,これに加えて,TlFe2Se2単結晶に対する極低エネルギー励起角度分解光電子分光実験も実施しているが,さらに詳細な実験を引き続き行っていく必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでにTlFe2Se2に対して,当初計画通り高エネルギー光電子分光実験を実施し,極低エネルギー励起光電子分光実験も進んでいる.また,併せて理論計算による実験結果の解釈も行っている.一方,Fe(Se,Te)については,結晶の質をさらに向上させる必要があるため,現段階ではいくつかの試行実験のみを行っている.2012年度には,本格的に極低エネルギー励起角度分解光電子分光実験を進めていく予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
TlFe2Se2対して,これまでに高エネルギー光電子分光実験を進めてきており,いくつかの補完的なデータをとることで,この物質系の広域電子構造を明らかにすることができる.今後は,FeSeとともに低エネルギー励起光によりフェルミ準位近傍のより詳細な電子構造および分散や等エネルギー面(金属の場合にはフェルミ面)を明らかにする必要がある.Fe(Se,Te)の混晶系は,単結晶育成が容易であることから,かなり詳細なフェルミ面構造が明らかになっている.従って,現在報告例がないFeSeについてこの知見を得ることが重要である. また,4d,5d電子系化合物であるSr2RhO4とSr2IrO4についても実験をスタートさせ,これらの物質の詳細なバルク電子構造を明らかにしていくとともに,幅広い主量子数の変化に伴うd電子系準粒子構造の普遍性や相違点を明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
光電子分光装置に必要な超高真空用消耗品(ガスケットなど)の購入と放射光利用実験のための実験出張旅費,学会発表のための出張旅費などに充てる.
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