2011 Fiscal Year Research-status Report
放射光X線共鳴非弾性散乱による5d遷移金属酸化物の磁気励起の観測
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23740246
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
石井 賢司 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (40343933)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | X線散乱 / 非弾性散乱 / 磁気励起 / 強相関電子系 |
Research Abstract |
2011年度は、まず、IrのL3吸収端での共鳴非弾性X線散乱(RIXS)を行うために必要装置の準備とてして、必要なエネルギー分解能が期待できるモノクロメーター、アナライザーをSPring-8のBL11XUに設置し、その性能評価を行った。モノクロメーターには、非対称なSi(333)反射を利用する独立した4個の結晶、アナライザーには、Si(844)面を湾曲させた結晶を使用した。これらを用いることでトータルでのエネルギー分解能として約100 meVが得られ、イリジウム酸化物の磁気励起を観測るためには十分と考えて、試料の測定へと進んだ。最初の試料には、銅酸化物高温超伝導体の母物質であるLa2CuO4と同じ層状ペロブスカイト構造を持った反強磁性体Sr2IrO4を選んだ。ネール温度(240 K)よりも十分低温でIrのL3吸収端でのRIXSスペクトルを測定したところ、約200 meV以下に大きな分散をもつ励起が観測された。得られた分散関係や強度の運動量依存性は、先に発表されたSr2I4O4の反強磁性マグノンの理論研究[L.J.P. Ament et al., Phys. Rev. B 84, 020403(R) 2011]とよく一致しており、それが観測できたものと考えられる。さらに励起の温度依存性を測定したところ、ネール温度よりも高温の400 Kにおいてもマグノンの励起エネルギーに幅の広がったピークが残存しており、結晶構造から予想される通りSr2IrO4は強い二次元性をもった反強磁性体であることも確認できた。以上の結果は、これまで中性子の独壇場であった運動量分解能を持った非弾性磁気散乱の観測が共鳴非弾性X線散乱でも可能なことを示したものであり、磁性研究を進める上で大きな進展と言える。そのための装置の整備も概ね終わっており、来年度以降、様々な試料での研究展開が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最大の目的であった「運動量分解能を持った非弾性磁気散乱の観測が、放射光を用いた共鳴非弾性X線散乱でも可能であること」の実験的な確立は、ほぼ達成できたと考えている。その理由として、(1)イリジウム酸化物の磁気励起の観測に必要な装置の高度化が順調に進み、様々な物質の測定への準備が整ったこと、(2)典型物質であるSr2IrO4で観測された励起について、現時点では定性的な範囲であるが、その分散関係、強度、幅の温度依存性が反強磁性マグノンと考えて矛盾なく、また、最近発表された理論計算と一致していること、が挙げられる。吸収端、偏光依存性の測定は、観測された励起が磁気由来であることをより確実にすることができ、またそこで得られた結果は磁気励起の選択則となり得るものであるが、現状では残された課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2011年度に開発した装置を用いて、幾何学的フラストレーションがあるイリジウム酸化物磁性体への研究へと展開する。併せて、エネルギー分解能の更なる向上を目指した装置の高度化も継続する。また、エネルギー分解能の向上に伴い散乱強度が減少してきており、測定効率を維持するための一つの方策として、複数のアナライザーを用いて複数の運動量を同時に測定するシステムを構築する。そのためのハード、ソフト両面の開発を行う。一方、Sr2IrO4において、ネール温度よりも高温の400 Kにおいてマグノンの励起エネルギーに観測された幅の広がったピークには、熱揺らぎの効果に加えてマグノンと伝導電子の相互作用の効果が現れていると考えられる。この点は、バンドギャップとマグノンのエネルギーが大きく離れているLa2CuO4とは対照的で、この物質の電子状態の特徴を捉えたものといえる。このような議論が共鳴非弾性X線散乱でできるようになったことは、実験手法としての発展性として重要である。この点に関する議論をさらに展開させるために、バンド幅のより広がったSr3Ir2O7についても同様の測定を行い、伝導電子とマグノンの相互作用についてSr2IrO4との違いを明らかにしたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費のうち物品費を使用して、アナライザー、検出器、試料などの位置調整のために必要な電動のゴニオメーター、ステージ、およびその駆動機構に必要な機器を購入する予定である。一方、旅費については海外の放射光施設での実験、関連学会への参加のために使用する。次年度使用額の二万円あまりについては、試料ホルダーなどの消耗品の購入に使用する。
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Research Products
(11 results)