2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740248
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
天羽 真一 独立行政法人理化学研究所, 河野低温物理研究室, 基礎科学特別研究員 (90587924)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 半導体 / 量子ドット / メゾスコピック系 / 電子相関 / スピン相関 / 量子情報 |
Research Abstract |
本研究では、多数の量子ドット、また、多軌道を持つ量子ドットを結合ことによって現れる電子相関・スピン相関に着目し、研究を進めている。本年度、得られた成果は以下の通りである。1. 並列3重量子ドットにおける共鳴混成体とスピン状態 自然界に見られる分子では、電子は分子内に拡がって共鳴混成体を形成し、安定化することが知られている。そこで、我々は、人工原子を3つ並べ、人工的な共鳴混成体を作成し、その安定性を調べることを試みた。並列に3つの縦型量子ドットを並べることで作製される3重量子ドットを用い、実験で得られた励起スペクトルと理論結果を比較した。3重ドットに閉じ込められた2電子状態では共鳴混成体を形成して安定化していること、2電子状態ではsingletに比べて、スピンの揃ったtriplet状態が、Pauliの排他律による2重占有の禁止によって不安定になっていること、3電子状態でも共鳴混成体が生じ、電子による位相に起因した特徴ある結合ができていることを解明した。2. 直列3重量子ドットにおけるスピンブロッケイド 4重障壁構造(3重井戸構造)を持つヘテロ構造を、微細加工して作製される縦型直列3重量子ドットは、多数のゲート電極を用いなくとも、3重ドットを形成でき、その上、電子が閉じ込められている場所が明瞭で、厳密な直列結合が得られやすいという利点がある。一方で、各ドットのポテンシャルを変調しにくく、電荷状態の同定が困難という欠点がある。これを克服するために、古典的な電荷モデルを用いた計算結果と、実験で得られたクーロンブロッケイド領域との比較を行い、電荷状態を同定した。同時に、co-tunneling過程を含む電子数2でのスピンブロッケイド領域と、その境界を決める要因を理解することができた。これらは、直列3重ドットにおける3電子のスピンブロッケイドの理解へ繋がるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
並列3重ドットに関しては、多数の量子ドットが結合して初めてみられる「共鳴混成体」の確認と共に、スピン状態の同定、また、共鳴混成体の安定性に対してスピンに寄与を明確にした。この結果は、より多くの結合ドット系のスピン相関を明らかにする上で重要な指標を与えるものである。また、縦型直列3重ドットの電荷状態を同定する方法を明らかにした。この方法は、直列3重ドット中でのスピン相関や環境との相互作用を検討する際に、議論の基礎、大きな指標を与えるものであり、重要である。また、新たに3サイトを有する結合ドット3電子系のスピンブロッケイドが確認されており、現在、電子状態との対応付けも行っている。その発展として、3電子のスピン状態と核スピンとの相互作用、他に多サイトを持つ結合ドットでのフォノンの影響などの検討を行っており、電子相関のみならず、環境との相互作用まで物理の理解の範囲を広げようとしている点で大きな進展が見られている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. これまでに得られた3電子系の知見を元にして、軌道縮退をもつ2重量子ドットや直列3重量子ドットのスピンブロッケイド状態の検出と理解を目指す。3電子系における環境との相互作用、具体的には、電子スピン・核スピン結合の解明や、スピン軌道相互作用の影響、フォノンとのコヒーレントな結合などの実現と物理の理解を目指す。2. より量子ドットが結合した系として、環状3重、4重ドットの素子の作成、電子物性の解明を目指す。並列直列4重結合量子ドットでのスピン相関、スピンブロッケイドの解明を目指す。直列3重量子ドットにおいても、より結合の弱い基板を用意し、スピンブロッケイドが明瞭に確認できるようにする。3. もっと多くの量子ドットが結合した系における興味深い現象の予測(スピンフラストレーション、Aharanov-Bohm効果など)を行い、多くの量子ドットを目的に合うように配列・結合させることで、今までにない機能が生み出す方法を考察する。また、ドット間にゲート電極が配し、かつ、各々のドットにもゲート電極が付されており、各ドットの化学ポテンシャルや結合も任意に変えられる、より自由度の大きい素子構造の検討を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
スピン軌道相互作用や波動関数、量子ドット間の結合は、方向性を持っているため、磁場方向との相対的な角度に依存した特性が期待できる。また、環状構造をもつ量子ドットでは、環を貫く磁場を印加すると、電子の干渉性に起因した振動(AB振動)が期待できる。それらの応答を調べることで、スピン軌道相互作用の寄与や環状構造に起因した物理を明らかにするために、1.5K試料回転機構付きサンプルフォルダ、および、インサートを用意する。また、試料冷却のための寒材などが必要となる。次年度へ繰越となった金額に関しては、ゲート電極の数の増大に合わせて、定電圧源の充当を考えている。
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Research Products
(6 results)