2011 Fiscal Year Research-status Report
時間分解角度分解光電子分光法による銅酸化物高温超伝導体の研究
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23740256
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石田 行章 東京大学, 物性研究所, 助教 (30442924)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 超高速現象 / 高温超伝導体 / 光電子分光 / 超短パルスレーザー / 強相関電子系 |
Research Abstract |
Bi2212の最適ドープからオーバードープ領域の試料について、緩和過程の過渡特性を時間分解角度分解光電子分光法(TrARPES)で調べたところ、緩和過程および緩和の励起強度依存性に顕著な運動量依存性が捕らえられた。ノード近傍の超伝導ギャップ領域においては、励起準粒子が~20 psを越えて過渡的に溜まることが観測された。溜まった励起準粒子の量は励起光強度増大に伴って飽和する傾向が見られた。これは同じディラック電子系であるグラファイト(Ishida et al., Sci. Rep. 2011)における観測結果(励起光強度に比例して、過渡的に溜まる励起準粒子の量が増大する)と明確に異なり、高エネルギー励起準粒子について何らかの早い緩和のチャンネルが存在することが示唆される。実際、擬ギャップ領域に近づくにつれて、過渡励起準粒子の寿命は1 psを切るほど短くなることが捕らえられている。一方、銅系高温超伝導体のTrARPESに限らず、非平衡時の光電子スペクトル強度が保存しない、という問題が広く認識されており、TrARPESによる詳細電子構造の分析を困難にしていた。トポロジカル絶縁体Bi2Se3において、占有側のスペクトル強度が過渡的に"増大"することが捉えられ、スペクトル強度費保存の問題が特に顕著に現れることがわかった。ポンプ・プローブ光の偏光依存性や励起光強度依存性を精査したところ、この異常な過渡変化は、非平衡表面分極の過渡変化を通じて、光電子放出確率が過渡的に変調を受ける現象であることが解明された(Ishida et al., submitted)。この非線形光電子放出現象を利用することで、表面スピン流の超高速制御と観測が可能となる。また、非線形光電子放出においても垂直遷移が保証されるので、Bi2212で見られるバンド分散幅の過渡変化についての解析が可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TrARPESを物性研究の汎用的なツールとして確立するために、TrARPES全般に見られるスペクトル強度非保存の原因を解明する必要があった。これが非線形光電子放出であるとの見通しがたったこと、またこのメカニズムが垂直遷移を保証することから、今後、非平衡光電子スペクトルの詳細な解析を行う基盤ができたと考える。また、ポンプやプローブ光の偏光制御を自動化したこと、また極紫外TrARPESにおいては光源を全固体にしたことで、データの質を飛躍的に高めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ポンプとプローブの偏光を利用することで、銅系高温超伝導体のTrARPESにおけるスペクトル強度の非保存の原因を解明し、詳細電子構造の解析の基礎付けを行う。これと平行して、擬ギャップのみが開く高温領域における過渡変化を調べ、緩和の運動量依存性と2ギャップ問題の関係を解明する。また、表面分極を通じた非線形光電子放出現象を利用して表面ラシュバ分裂の超高速制御・検出を行い、光スピントロニクスの新たな原理を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
光電子の2次元ディテクタであるマルチチャンネルプレート(MCP)が経年劣化している。現状、検出効率が2割まで落ちている領域がある。これを新しいものに交換する(~100万円)。
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