2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740269
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伏屋 雄紀 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (00377954)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | ディラック電子 / ビスマス / 微少散逸電流 / スピン偏極電流 / 国際研究者交流 / フランス |
Research Abstract |
固体中ディラック電子を用いた新しい伝導現象の理論的研究を行った.(A―1)理想ディラック電子について,遷移行列要素を計算し,選択則を導いた.その結果,通常の軌道遷移の他にスピン遷移がスピン軌道相互作用によって新たに生まれることを明らかにした.(A―2)得られた選択則に基づき,交流伝導度を久保公式を用いて計算した.通常の縦偏光を用いた光学伝導度ではスピン偏極した電流が得られないのに対し,円偏光を用いればスピン偏極した新種の電流が得られることを発見した.また振動数を調節すれば,100%スピン偏極した電流が得られることを明らかにした.(この結果はJ. Phys. Soc. Jpn. 誌において発表した.)この電流はバンド間遷移のみによって生み出され,不純物にほとんど散乱されないことも明らかにした.これにより,直流では混成していた通常電流と微少散逸電流が交流によって完全に分離されることが分かった.この発見により,非磁性物質に光を照射することでスピン流を流す,新しいデバイス開発への道が切り拓かれた.この新奇メカニズムは,光で制御でき,散逸も少ないことから,デバイスの微少化,および省エネルギー化に大きな利点をもっている.(B―1)従来のSBR模型では量子振動を理論解析するにあたり,高々±10度程度の角度範囲しか解析できなかった.最近の新しい実験に対応し得る,「拡張ディラック模型」を新たに考案した.この模型によって,強磁場および全方位磁場の量子振動を解析できる様になった.12テスラまでの角度分解ランダウスペクトル測定の結果を新しく導入した拡張ディラック模型を用いて解析し,有効質量やg因子など各種変数を同定した.全方向に対して非常に高精度で理論と実験が一致した.(なお,この結果はPhys. Rev. B誌ににおいて発表し,Editor's suggestionに選ばれた.)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)当初目的としていたスピン偏極電流が確かに実現できることを明らかにしたのみならず,従来のスピン偏極度の理論限界である50%を大幅に超える100%のスピン偏極電流が達成できるメカニズムを考案した.(2)当初目的では,バンド間遷移による伝導度の割合をバンド内遷移に比べ(同程度に)高めることを目標としていた.今回明らかにした結果によれば,ほぼ100%がバンド間遷移となる様に振動数を調節できることが分かり,当初目標を大幅に超えた高い比率のバンド間遷移による微少散逸電流が得られる様になった.(3)計画段階では次年度の計画であったビスマスの有効模型の構築,およびバンド構造の解析を今年度中に実施し,当初の目的を達成することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
(A―3:追加課題)前年度の研究で,動的伝導度(交流電流)においてスピン偏極電流が可能となることを発見した.次はこのスピン偏極電流が静的伝導度(直流電流)では実現可能であるかどうかについて研究を行う.(B―2)これまでに12テスラまでの角度分解ランダウスペクトル測定の結果を解析してきた.次は更に30テスラまでの測定結果を解析し,より強磁場まで高精度で解析できる理論模型を完成させる.(B―3:追加課題)実験で観測された「三次元分数量子ホール効果」を示唆するピーク構造の原因を究明する.現時点では,結晶の"双晶性"の観点から原因を突き止めることを考えている.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
より高精度の理論解析を実現する為,数値計算ワークステーション,およびその管理サーバー等を導入する.また,必要があれば,第1原理的視点からバンド構造を解析する為に,市販の第一原理計算アプリケーションを購入し,これを用いてビスマスのバンド構造を解析する.強磁場の角度分解ランダウスペクトルの結果を解析する為,測定を行っているパリ高等物理化学学校のグループを訪れ,共同研究を進める.
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Research Products
(9 results)