2011 Fiscal Year Research-status Report
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23740270
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川椙 義高 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (40590964)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 分子性導体 / スピントロニクス / スピンバルブ |
Research Abstract |
有機材料は次世代のエレクトロニクス材料として注目されているが、軽元素から成るためスピンが散乱されにくく、スピントロニクス材料としても有望である。実際に10年ほど前から有機スピンバルブの研究が行われるようになっている。しかし先行研究は有機半導体に限定されており、低い電気伝導度のためか、無機材料を超えるスピン輸送能力の発現には至っていない。本研究では有機物におけるスピン輸送現象を評価することを目的として、分子性導体を用いたスピンバルブの作製を試みた。分子性導体は有機物でありながら金属の電子状態をもっているため、すでに確立されている、金属スピンバルブの手法を用いた評価がしやすい。とりわけ、本研究で用いた、電流経路と測定端子が分離した「非局所測定」は、スピン輸送能力を精密に測定できるため、既存の金属材料と有機材料におけるスピン輸送の違いを評価する上で非常に有用である。これは電気伝導度の高い分子性導体を利用したことによってはじめて実現した。平成23年度はスピン注入に用いるハーフメタル電極(LSMO)の微細加工と、スピンを輸送させる分子性導体(BEDT-TTF塩)の薄膜状単結晶の合成を中心に研究を進めた。前者は化学反応により磁性が劣化することがわかり、より一般的な強磁性体で代替したが、スピンバルブ構造を作り安定した電気抵抗測定を行うことに成功した。作製した試料を用いて室温で非局所測定を行った結果、有機材料で初めて非局所磁気抵抗が観測され、分子性導体中の電子が1ns以上のスピン緩和時間を持つと見積もられた。この値はアルミや銅といった軽い金属やグラフェンよりも大きく、有機分子から成る物質で実際にスピンが散乱されにくいことを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハーフメタル電極が使用できないなど試料作製上の問題点はあったものの、代替材料を用いることによって、当初の目的の第一段階である分子性導体スピンバルブの作製に成功し、磁気抵抗効果を観測することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
試料作製の手順はおおむね確立したため、異なる電子状態をもつ2種類の物質に対してスピン注入を試みる。1つは超伝導体のkappa-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br、もうひとつはゼロギャップ導体alpha-(BEDT-TTF)2I3である。しかしながら、どちらの試料についても、現在使用しているシリコン基板は使えない。分子性導体の結晶と基板の熱収縮率の違いによってひずみがかかり、基底状態が絶縁体になってしまうからである。これを回避するために熱収縮率が結晶と近いプラスチック基板を用いる必要があり、まずは基板材料の選択とプラスチック基板上での電極微細加工の手法を確立する。試料作製に成功したら、今年度と同様の非局所測定を行う。研究計画で述べたように電子状態の違いによるスピン輸送の変化が観測されるはずである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では試料作製に必要な消耗品が多いため、次年度予算は60%程度を消耗品に使用する予定である。電極の微細加工に用いるレジストや、分子性導体の材料となる試薬、また圧力セル用の消耗部品の購入に使用する。30%を簡易ドラフト装置などの備品の購入にあて、残りの10%程度を学会発表のための旅費に使用する予定である。
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Research Products
(3 results)