2012 Fiscal Year Research-status Report
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23740275
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
鬼丸 孝博 広島大学, 先端物質科学研究科, 准教授 (50444708)
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Keywords | 強相関電子系 / 磁性 / 熱電物性 |
Research Abstract |
近年,カゴ状結晶構造をもつ化合物の多彩な新物性が注目され,カゴ中の磁性イオンの低エネルギー大振幅振動(ラットリング)に関する研究は磁性とフォノン物性の融合分野を創出しつつある。本研究では,磁性希土類原子がゲストとしてカゴに100%内包されている唯一のクラスレートEu8Ga16Ge30に着目し,磁気モーメントを持つイオンの非中心ラットリングがその磁性にどのような影響を及ぼすのか明らかにする。I型Eu8Ga16Ge30はTC=36 Kの強磁性体である。われわれはこれまでに,TCより低温のT*=24 K付近で磁気構造のクロスオーバーが起こっており,変調強磁性構造が実現していると提案した。そこでEuの振動状態と磁性の相関について調べるため,加圧によりカゴサイズを縮めることにより,非中心ラットリングを中心に近づけて,磁化,電気抵抗,ならびにX線磁気円二色性(XMCD)の測定を行った。圧力下での磁化と電気抵抗の測定より,TCとT*はいずれも加圧ともに上昇する。電気抵抗率のT*でのピークの高さはPc=6 GPaまでに大きく抑えられるが,それ以上ではほとんど変化しない。ラマン散乱実験から指摘されているように,Pc近傍でEuの非中心振動が中心へと変わることが関係していると思われる。また,XMCD測定では,MCD信号がマクロ磁化測定と同様の温度変化を示した。加圧していくとTCが上昇し,P*=13 GPa付近でMCD信号はほばゼロになる。X線吸収スペクトル解析から,P*でEuの価数が2価から中間価数になり,磁性が大きく変化したと思われる。一方,キャリアドープした系の物性測定より,キャリアが増えるとともにTcでの比熱の跳びは大きくなり,一様強磁性が実現しているように思われる。T*での電気抵抗率と磁化の異常もなくなった。これらの結果は,変調磁気構造とキャリア密度に相関があることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで,固体溶融法によるキャリアドープした系の単結晶作製に成功した。キャリアが増えるとともにTcでの比熱の跳びは大きくなり,一様強磁性が実現しているように思われる。また,T*での電気抵抗率と磁化の異常もほとんど見られなくなった。これらの結果は,変調磁気構造とキャリア密度の相関を示唆する。 圧力下マクロ物性測定については,広島大学自然科学研究支援開発センター・梅尾 和則 准教授の協力のもと,8 GPa までの磁化と12 GPaまでの電気抵抗を測定した。TCとT*は加圧ともに上昇し,T*でみられる電気抵抗のピークの高さはPc=4 GPaまで徐々に抑えられ,それ以上ではほとんど変化しない。Pc近傍でEuの非中心振動が中心振動へと変わっていることが原因であると思われる。また,常圧と高圧下でのXMCD測定を行った。MCD信号はマクロ磁化測定と同様の温度変化を示すことから,磁化検出の時間スケールによる違いがないことを確認した。加圧とともにやはりTCは上昇し,P*=13 GPa付近でMCD信号はほばゼロになる。X線吸収スペクトル解析から,P*でEuの価数が2価から中間価数になり,磁性が大きく変化したと思われる。 また,キャリアをドープした系の電気抵抗率,磁化,比熱の測定を行った。キャリアが増えるとともにTcでの比熱の跳びは大きくなり,一様強磁性が実現しているように思われる。また,T*での電気抵抗率と磁化の異常もほとんど見られなくなった。これらの結果は,変調磁気構造とキャリア密度に相関が あることを示唆している。 これまで試料作製をその主な手法として研究を進めており,ラマン分光やNMR/NQR,μSR,放射光,超音波測定などのグループに良質な試料を供給した。このような多面的な共同研究を通して,ラットリングと磁性の相関という新しい課題に対する情報を共有してい く。
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Strategy for Future Research Activity |
キャリアドープした系のX線磁気円二色性(XMCD)測定を,研究協力者の筒井 智嗣 博士の協力のもと行う。磁気円二色性とは,磁場を印加した際に現れる双極子遷移における選択則の違いによる右回り円偏光と左回り円偏光の吸収強度の差のことで,元素選択的に磁化を測定することができる。測定のための試料が微量で良いため,高圧力・強磁場下での磁化測定が可能である。本研究では,硬X線を使って希土類元素のL吸収端 (2p→5d)で測定するため,SPring-8での課題を研究代表者本人が申請する。 キャリアドープした系のMCD信号とマクロ磁化の温度依存性を比較し,磁化検出の時間スケールによる違いを考察する。また,キャリアドープした系の磁気構造について,中性子散乱実験により調べる。磁気構造のキャリア依存性を調べ,変調強磁性構造の安定性について考察する。Euは中性子の強い吸収体であるため,153Euアイソトープを使った単結晶を作製する。 Eu8Ga16Ge30における圧力下中性子散乱実験を行う。スピンを持つ中性子と物質中の磁気モーメントの間には磁気双極子間相互作用がはたらくので,回折強度の波数依存性を解析することで磁気構造が求まる。申請者はこれまでに,梅尾 和則 准教授との共同研究で,希土類フラストレート系 YbAgGeにおける2 GPaまでの中性子回折実験を成功させている。ここで得られたノウハウを本研究にも活用する。しかしながら,日本原子力研究開発機構の研究用原子炉改3号炉は現在停止中であるため,常圧下の中性子散乱についても未だ実験できていない。そこで,共同研究者であるD. T. Adroja 博士と協力して,イギリスのISISのビームラインでの中性子散乱、ならびにμSRの実験を計画している。 また,今後も引き続き,特徴ある手法をもつ測定グループへ良質な試料を提供して,共同研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究での試料作製は,これまでと同様に,数日かけて徐冷するフラックス法ならびに固体溶融法を採用する。示差熱分析で融点を調べ,原料の仕込み比や温度プログラムを最適化するなど,純良な単結晶の作製にはある程度の試行実験が必要である。そのために,試料の原料となる高純度の金属材料を購入する。日本原子力研究開発機構の研究用原子炉改3号炉は現在停止中であるため,中性子散乱実験による磁気構造の観測は未だ出来ていない。引き続き,中性子散乱実験に備えて,153Euアイソトープを用いて中性子散乱実験のための単結晶を作製する。153Euは0.1 グラムで約15万円と大変高価であるが,本研究で大きなウェイトを占める磁気構造に関する議論のために不可欠である。これまで 153Euで作った試料を日本原子力研究開発機構で使用していたが,放射化のため施設外に持ち出せない。他の研究施設での中性子散乱実験のために,今年度も新たに試料を作製する。また,電気抵抗や磁化,比熱などの物性測定全般において液体ヘリウムや液体窒素を用いるので,これらの寒剤を購入する。これまでに得られた成果について,国内外の学会や研究会で報告し,原著論文としてまとめる。
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Research Products
(27 results)