2012 Fiscal Year Research-status Report
スピンフラストレーション系におけるスピン誘導型強誘電性の圧力制御
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23740277
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
中島 多朗 東京理科大学, 理学部, 助教 (30579785)
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Keywords | 強相関系 / スピンフラストレーション / マルチフェロイック |
Research Abstract |
本研究は磁気的にフラストレートした磁性体CuFeO2が示す多彩な磁気秩序及びそれに付随する強誘電性を、一軸圧力を用いてコントロ ールする事を目的としている。H23年度は、「一軸圧力による系の磁気ドメインの再配列効果を通じた電気分極の制御」を実現し、さらにそのドメイン制御の技術を応用してCuFeO2の磁気的単ドメイン基底状態における中性子非弾性散乱実験及びその理論的解析からCuFeO2のハミルトニアンを決定した。これに加えてH23年度の8月には、非磁性Ga3+イオンをドープすることでマルチフェロイック相を基底状態として持つCuFe1-xGaxO2(x=0.035)試料の一軸圧力中での中性子非弾性散乱実験をアメリカオークリッジ国立研究所において行い、共同研究者 であるJ. T. Haraldsen氏、R. S. Fishman氏と共に理論的解析を進めてきたが、24年度に理論計算と実験の結果を合わせて、論文[ T. Nakajima et al. Phys. Rev. B 85 144405 (2012)]として発表した。 また、H24年度は一軸圧力中の中性子散乱実験以外にも一軸圧力中の帯磁率測定も進めており、過去の中性子散乱の実験の結果と合わせてこのCuFeO2系の磁気相転移に対する一軸圧力効果を系統的に探査した論文[ T. Nakajima et al. J. Phys. Soc. Jpn, 81 094710 (2012)]を発表した。 これと平行して、H24年度に入ってから、この系のスピン格子結合に対する一軸圧力効果を微視的な視点で明らかにすべく、一軸圧力中の放射光X線回折実験を実現するための装置開発を行ってきた。現時点において高エネルギー加速器研究機構の山崎氏、中尾氏との共同実験として実験を進めており、論文発表できる成果を得つつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、本申請では対象物質CuFeO2の磁性と誘電性の交差相関、及びそれに随伴する格子歪みについて、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構の研究用原子炉JRR-3における中性子散乱実験を中心に進める予定であった。本研究がスタートする直前の2011年3月に起きた東日本大震災のために現在に至るまでJRR-3は稼働していないが、それを補うべく、アメリカオークリッジ国立研などでの中性子散乱実験や、高エネルギー加速器研究機構Photon Factory内での放射光X線回折実験等を相補的に用いて実験を進めることができている。 これまで得られた成果を列挙すると、H23年度は「一軸圧力によるCuFeO2の磁気ドメインの再配列効果を通じた電気分極の制御」と「一軸圧力を用いた磁気的単ドメイン基底状態における磁気励起スペクトルの観測」を実現し、H24年度は先に述べたように「CuFeO2系の磁気相転移に対する一軸圧力効果の系統的な探査」及び「マルチフェロイック相を基底状態として持つCuFe1-xGaxO2(x=0.035)の一軸圧力中中性子非弾性散乱によるハミルトニアンの決定」などがあり、おおむね順調に研究成果を出すことができていると言って良いと思われる。 さらにH24年には、一軸圧力中の放射光X線回折のための実験装置を開発し、実際に高エネルギー加速器研究機構の共同実験者と実験をスタートすることができた。また昨年度末の3月には、このCuFeO2の第二磁場誘起相における磁気励起を観測するべくイギリスRutherford Appleton Laboratory内ISISでの磁場中中性子非弾性散乱実験を行った。現在この結果を解析中であるが、この系が内包する強い幾何学的フラストレーションを反映したエキゾチックなスピン格子結合を解明する手がかりとなることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本申請はH23-24年度の2年間であり、実際にその2年間で上記のような研究成果を出すことができている。 本申請での締めくくりとなる磁場中中性子非弾性散乱実験については、前述の通りH24年度中にイギリスRutherford Appleton Laboratoryへプロポーザルを出しマシンタイムを得ることが出来たが、実際に実験を実施する時期が装置グループとの予定調整のためH24年度三月末頃にずれ込んでしまい、これにかかる費用を支出するため、1年間の補助期間延長申請を出した。 実験はすでに予定通り終了しており、有益なデータも得られていると期待できるため、今後はこれを解析して論文として発表することを進める計画である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
多額の研究費が必要な実験はほぼ終了しており、実際、研究費も9割以上消化しているため、1年間の延長期間となるH25年度は、これまでの成果を論文としてまとめ、また学会や研究会等でも発表することを計画している。研究費は主に国内の学会等に参加するための旅費として使用する計画である。
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