2012 Fiscal Year Research-status Report
アクティブ流動系における同期現象と協同的ダイナミクスの理論
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23740286
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 就也 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10344649)
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Keywords | 国際情報交換 / イギリス |
Research Abstract |
繊毛の流体力学相互作用のモデルとして前年度までに構築した剛体球回転子のモデルについて、2体の回転子の非線形ダイナミクスを詳細に解析した。回転子の位相差が従う有効ポテンシャルについて次の結果が得られた。(1)軌道の形状の効果:直線軌道については線形解析で予想できなかった同期状態が見つかった。楕円軌道については双安定型のポテンシャルを持つ場合がある。(2)回転子間の距離や平面基盤からの高さの効果:回転子間の距離が近い場合はポテンシャル形状が軌道の傾きに強く依存する。これらの結果は、繊毛集団の協同的なダイナミクスが、個々の繊毛の運動パターンの詳細に強く依存することを意味する。また、(3)2つの回転子が作り出す流れの流量およびエネルギー散逸率を解析した。円軌道の場合、これらはいずれも流体相互作用によって増大する一方、回転の周期は流体相互作用によって短くなる。このことは、繊毛が集団運動を制御するためにエネルギー効率を犠牲にしている可能性を示唆する。さらに我々は(4)繊毛の柔軟性の効果を検討するため上記の回転子にバネを取り付けたモデルを考案、解析した。その結果、柔軟性の効果で位相遅れが生じることが分かった。またバクテリアカーペットのモデルについては、前年度までに構築したモデルをGPGPU並列計算機環境に移植し、3次元流速場の構造およびその中に置かれたトレーサー粒子の拡散を解析した。その結果、渦状の流れに捕捉されたトレーサー粒子が基盤に対して垂直方向に輸送されることが判明した。一般の長距離結合振動子系については、自己無撞着場理論の2ループ近似での解析を実行し、秩序変数および空間相関関数を計算した。その結果、摂動パラメータ(相互作用のべき指数と空間次元の差)がより大きい所まで理論の適用可能性を広げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
繊毛のモデルについては、多体系が示す進行波パターンの再現、理解にまでは至らなかったものの、実際の繊毛が持つ多様な性質を取り入れてモデルを拡張し、2体系のダイナミクスを詳細に調べることができた。モデル及び解析手法がほぼ完成したため、2体系から多体系への進展は容易であると考えている。バクテリアカーペットについては、3次元流速場を構成して輸送現象を調べられたことは当初計画にない進展であった。一般の長距離結合振動子系については、理論的解析は当初計画通りに進展している一方、数値的解析はまだ十分には行えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
繊毛系については、既に構築したモデルを用い、1次元配列、2次元配列などの多体系におけるダイナミクス、特に進行波(メタクロナル波)の発生条件や性質を明らかにする。バクテリアカーペットについては、流速場の統計的解析を進め、低レイノルズ数における乱流的輸送としての特徴を抽出する。一般の長距離結合振動子系については数値解析を進めて理論的結果との比較、検討を行う。またこれらの結果について研究成果発表を順次進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
共同研究者のラミン・ゴレスタニアン氏 (オックスフォード大学、イギリス) を訪問して研究打ち合わせを行う。これはもともと今年度に予定していたものであるが、ゴレスタニアン氏とは今年度3件の国際会議で同席する機会があり、その機会を利用して今後の研究方針について当面必要な打ち合わせを行うことができたため、訪問は次年度に延期することとした。今年度交付分の助成金に未使用額が生じたのは主にこの訪問延期による。次年度の訪問は3週間程度を予定している。また、ケンブリッジ大学(イギリス)で行われるアクティブソフトマターに関するワークショップに出席し、研究成果発表を行う。これらに係る旅費および会議参加費として、今年度の未使用額と次年度の請求額を合わせた額の7割程度を使用する予定である。その他に国内1件以上、海外1件以上の研究集会に出席して研究成果発表を行う。また、計算機プログラミングや論文執筆の作業の効率化のため、液晶ディスプレイを購入する。
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