2012 Fiscal Year Research-status Report
熱が関わる輸送現象における輸送形態の分類、揺らぎ、制御の統計力学的研究
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23740289
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
齊藤 圭司 慶應義塾大学, 理工学部, 准教授 (90312983)
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Keywords | 非平衡統計力学 |
Research Abstract |
2012年度の目標は、1)異常熱伝導現象を現象論的に記述するレビーウォークなどを用いた確率モデルを構築し、平均流とゆらぎの性質を整理すること、2)微小輸送系における熱電効果における熱効率の理論を構築すること、また具体的な系を通して時間反転対称性を失った系での効率の熱力学的限界を明らかにしていくこ、であった。これら2つの大きな目標はおおむね達成されたと言ってよい。 まず1)の異常輸送に関する課題では、異常輸送はかねてから異常拡散が関連する現象であることは解析的および数値的な研究から予想されていたが、我々はこれまでの研究をすべて包括する理論を構築できたと思われる。我々のモデルにより、これまで知られていたすべての異常輸送の性質を再現できたばかりでなく、非平衡系の熱流ゆらぎを考えるために、高次ゆらぎを生成する生成関数の形式的な厳密解を導出することも出来た。我々のモデルは現象論的な確率モデルであり、それを力学系から第一原理的に導くという大問題が残されているが、それは今後の課題である。 次に2)の微小輸送系での熱電効果における熱効率の理論では、特に磁場の影響を解析した。線形応答領域に限定することにより単純明快な議論を行うことができた。解析の結果、熱力学第2法則のみでは有限パワーとカルノー極限の共存は排除できないことが分かるが、この可能性を問うための研究を行うために、磁場の影響によりゼーベック係数が磁場反転に関して非対称になるモデルを考案し、詳細を調べた。その結果このような異常なことは起きないが、最大仕事率下での熱効率は従来知られているクルゾン-アールボン効率を超えることが出来ることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、2つのおおきな目標があった。i) 非平衡ゆらぎに関する重要な予言である「相加性原理」の検証をすること、ii) 微小輸送系における熱電効果における熱効率の理論を構築すること、である。i)では、具体的なモデルを厳選しその中でかなり明快な答えを出すことが出来ている。ii) では特に一般論を構築することでその中から新たな問題提起をすることができた。そして2012年度では、ii)の課題において具体的なモデルをもとに非常に興味深い予言を行うことが出来た。また異常輸送現象に対する確率モデルを導入し、その本質を見いだしたことは、この分野に大きな前進につながったと言える。これらの意味で、現在までの達成度はきわめて良好と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度でおこなったように、国外の研究者との連絡を密に取り研究を行っていく。熱伝導現象において、特に異常輸送領域での長距離相関の性質を解析的数値的に明らかにしていく。また、熱伝導現象でスピンボゾン系などを考えることにより、量子系特有の現象が得られるかを明らかにする。また、熱伝効果に関しては、とくにネルンスト効果に焦点を当てた研究を行いたい。例えば局在非局在を反映した新規な輸送現象が見えるかを明らかにする。研究はインド、イタリア、ドイツなどの研究者との議論を通して行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主な研究費の使い道は、旅費として使う予定である。この研究は国際的な共同研究として行っているためである。特に共同研究者がいるインドおよびドイツ、イタリアの渡航を予定している。
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Research Products
(2 results)