2012 Fiscal Year Research-status Report
高密粉体ダイナミクスの非平衡輸送における応答理論と動的多体相関による統一的解明
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23740293
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
礒部 雅晴 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80359760)
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Keywords | 粉体気体 / 非平衡輸送現象 / 応答理論 / 分子動力学法 / 動的多体相関 / 国際情報交換(フランス) / 国際研究者交流(米国) |
Research Abstract |
粉体気体系は、局所非平衡系の統計力学を推進する理想モデル系として大きな理論的発展が期待されている。また高密系においては「ジャミング転移」が注目され、ガラス転移との関係が盛んに研究されている。本研究では、高密度、高次元、重力場、複雑な幾何学や様々な境界条件の下での粉体系の非平衡輸送現象とその微視的原理の解明をめざし、理論と大規模計算機シミュレーション双方から、粉体系の全密度領域における精密な研究を遂行し、局所非平衡系での新しい方法論の開発と全密度領域の粉体ダイナミクスの輸送現象の統一的解明を目的としている。 昨年度は研究計画の2年目であり、初年度に構築した計算機環境に加え、新たに高速計算機サーバの増設を行った。また、以下の成果を得た。(i) 擬1次元系の粉体振動層において、重心揺らぎを有効温度に修正した揺動散逸定理とそれに基づく応答理論を構築した。大規模シミュレーションとの比較を行い、理論の妥当性を検証した(Wakou&Isobe, PRE)。(ii)粉体気体系においてレイノルズ数の導出をし、準弾性衝突極限での乱流化の証拠を示した。また、緩和の後期ステージにおけるクラスター間衝突による衝撃波現象を見出した(M.Isobe,IJMPC;JPCP)。(iii) 高密剛体球系の融点近傍で生じる「トランジェントな結晶」を定量化するため、次の2つの新しい方法論を開発した。(a) 最近接結合秩序パラメーターの高次近接シェルへ拡張。(b)配向因子相関関数計算における近接シェル内粒子の時空粗視化による高速化。(b)では従来の粒子衝突ベースの計算に比べ、約2桁高速な計算を実現した。この方法では、従来は不可能とされた4体2時間配向因子自己相関関数の距離依存性の計算も可能となった。これらは、一般のガラス系やジャミング転移を定量づける方法論としても応用が期待される(Isobe&Alder,JCP)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本プロジェクト研究は4つのステージで構成されている。(A)粉体応答理論を擬1次元系で確立させる。鉛直方向の密度反転と揺動散逸仮定の破れなどの関係を明らかとし、応答関数や巨視的物理量の揺らぎの統計的性質を大規模シミュレーションとの比較から精密化させる。(B)高次元、高密度、重力場の大きさ、複雑な幾何学を持った様々な境界の影響を考慮する。 (C)低密粉体気体系の乱流化と「エンストロフィーカスケード」、3次元系への拡張を行い「乱流化の起源」を探る。(D)高密粉体系輸送現象に関して多体相関関数を解析する新しい方法論を応用し、「ジャミング転移」「Bose凝縮様な現象」の微視的起源を解明する。 昨年度は、(i)計算機環境の構築に加え可視化環境の構築、(ii)(C)の粉体乱流化の研究の推進。(iii)Alder氏との共同研究である「高密剛体球系のトランジェントな結晶化とモラセステール問題」を解決する方法論の構築。(iv)Krauth氏との共同研究において、Event-Chain MC法との高速ハイブリッドコード開発と高密準2次元剛体球系での相転移の解明。を計画した。(i)は核融合研の協力を得て研究を推進、(ii)(iii)はそれぞれ原著論文出版。(iv)は、Krauth氏(ENS-Paris)らとGlotzer氏(ミシガン大学)らとの共同研究に発展し、世界の3つの拠点による3つの最新の方法論による「高密2次元剛体球系の融解現象」の世界最大規模のシミュレーションを実行し論文を出版した(Engel&Anderson& Glozter&Isobe&Bernard&Krauth,PRE(2013)印刷中)。本年度は、論文5(内1印刷中)、解説論文2、米国での国際会議にて3 回発表、研究機関で2回の招待セミナーを行った。当初の計画通り、順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本プロジェクトの最終年度となり、本研究の目的である全密度領域の粉体ダイナミクスの輸送現象の統一的解明をめざす。今後の研究の具体的な推進方策として、4つのステージの内、現在研究遂行中である、(C)の3次元系のReynolds数の導出と100万粒子以上の大規模計算で初めて顕著となる粉体気体系の自由冷却過程の後期ステージにおける凝集クラスター同士の衝突領域と発生する衝撃波伝播の詳細な解析、(D)で開発された2つの方法論を「ガラス・ジャミング転移」へ応用し高密準2次元剛体球系の相転移の解明と相図の作成、などを計画している。それぞれにおいて、原著論文の出版と国際会議への発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
初年度、2年目で計算機環境の構築を行ったが、プロジェクトの性質上、これらの高速計算機のCPUリソース不足が顕著となっており、次年度においても研究費の予算の半分を使って、さらなる高速計算機の増設を予定している。また、残りの半分で国内外への学会、国際会議での成果の発表を計画している。特に3年に一度開催される統計物理学の国際会議「STATPHYS 25」が7月にソウルで開催されるため、参加発表を予定している。
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Research Products
(10 results)