2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740298
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
桂 法称 学習院大学, 理学部, 准教授 (80534594)
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Keywords | 強相関電子系 / 物性基礎論 / 数理物理 / 記号計算 |
Research Abstract |
相関の強い量子系に対して、数理物理的な観点からアプローチし研究を行った。本年度の成果として、以下の3つに関するものが挙げられる。(1)格子上のRydberg原子系の基底状態およびエンタングルメント,(2)SU(n) Fermi-Hubbard模型における長岡強磁性, (3)spin-1 Bose-Hubbard模型の基底状態。 (1)先行研究において、一次元光格子上のRydberg原子系に対する有効模型が導出されていたが、この模型においてパラメターをうまく選ぶと、別の文脈で議論されていた相互作用するFibonacciエニオン系が実現できることを明らかにした。また、二次元格子上のRydberg原子系に対する可解模型としてLesanovskyにより提案された、量子hard-square模型に対して、基底状態の性質を調べた。特にラダー上の模型に対して、そのエンタングルメント・ハミルトニアンと対応する共形場理論の関係を明らかにした。 (2)SU(2)対称性のある通常のHubbard模型において、相互作用Uが無限大で、電子数がサイト数より一つだけ小さい場合に、強磁性が現れることは長岡強磁性として知られている。この結果を、SU(n)対称性のあるHubbard模型の場合に拡張した。また、SU(6)の場合にこの強磁性状態を、冷却原子系において観測するスキームの提案を行った。 (3)スピン自由度(S=1)のあるBose-Hubbard模型の基底状態の基本的な性質を調べた。その結果、基底状態は、スピンに依存する相互作用の符号に応じてi)強磁性, ii)スピン一重項, iii)SU(3)強磁性状態, となることを厳密に証明した。これらの結果は、従来は特定の占有数の場合に有効スピン模型を用いて議論されていたものを、元のBose-Hubbard模型でより一般的な状況に拡張したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きなテーマ、1.低エネルギー有効Hamiltonian、2.高い対称性を有する格子模型、の2つであるがそれぞれに対して大きな進展があった。 テーマ1については、冷却原子系で議論されている格子上のRydberg原子系の低エネルギー有効Hamiltonianに関する研究を行い、その基底状態の臨界性やエンタングルメント特性などを明らかにすることができた。これは、有効Hamiltonianの導出や、Mathematicaによる記号処理や数値的対角化を組み合わせたものであり、通常の解析的・数値的な計算だけでは到達しえない結果である。したがって、当初の目標以上の成果があったと考える。 テーマ2については、SU(n) Fermi-Hubbard模型の基底状態について、通常のHubbard模型における長岡強磁性の拡張を示した。これは高い内部自由度をもつFermi-Hubbard模型において初めて示された厳密に成り立つ結果であると考えられる。また、Fermi-Hubbard模型での知見を活かし、内部自由度をもつBose粒子に対するHubbard模型に関する研究も行った。その結果、この模型についても、基底状態に対して成立する厳密な結果を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 格子上のRydberg原子系の基底状態と励起状態 今年度大きな進展のあった、格子上のRydberg原子系に関する研究を更に進めていきたい。特に、昨年度は一次元の模型の基底状態の性質についての研究を主に行ったが、二次元以上の模型の基底状態や励起状態の性質について調べていく予定である。まず、いろいろな格子上での量子hard-square模型の励起ギャップについて、不等式の方法を用いてアプローチすることを考えている。また現実的には、Lesanovskyの一次元模型が二次元・三次元的に弱く結合したような系が実験的に実現可能であると考えられるので、これらの系に対して鎖間平均場近似や、一次元鎖について厳密に知られている結果を組み合わせて相図やダイナミクスを模索していきたい。 2. サイン二乗変形系の励起状態 昨年度の研究において、一次元量子臨界系の局所ハミルトニアンにサイン二乗変形と呼ばれる変形をかけた場合、その系の基底状態が元の一様系の基底状態と一致することを幾つかの可解模型において明らかにした。この結果は、「基底状態以外に、元の一様系とサイン二乗変形系で共通のエネルギー固有状態はあるか?」という自然な疑問を提起する。これに答えるべく、次年度はサイン二乗変形系の励起状態に関する研究を行いたい。特に、一次元XY模型やIsing模型について、励起状態の代数的な構成や、励起エネルギーの不等式を用いた評価などを行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度もPCソフトや、PC関連物品などの購入に物品費を用いる予定である。また、今年度から始めたRydberg原子系の研究のために、関連する分野の書籍などを購入することにも用いたい(当該年度所要額のうちの次年度使用額(20,124円)は、端数として残ったものであり、こちらは次年度に書籍等を購入する目的に使用する予定である。) 本研究は、多くの海外研究者との共同研究に基づいている。次年度も海外での学会・短期プログラムなどに参加し、多くの海外研究者と交流することを計画している。また得られた研究成果をまとめ、国内・海外の学会・研究会において発表を行うため、国内旅費・海外旅費が必要である。また国内外の共同研究者の講演・短期滞在に対して人件費・謝金を用いることを計画している。
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Research Products
(24 results)