2011 Fiscal Year Research-status Report
変形と回転の幾何学に基づく複雑分子システムの集団運動と機能の解明
Project/Area Number |
23740300
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
柳尾 朋洋 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (40444450)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 非線形力学 / 幾何学 / クラスター / DNA / 分子モーター / キラリティ / 国際情報交流 / アメリカ、ドイツ |
Research Abstract |
本研究の目的は、原子分子集合体や生体分子モーターなど、高度な秩序構造や機能を有する複雑分子系の集団運動のメカニズムを、非線形力学と微分幾何の観点から解明することにある。この目標に向けて、本年度は、これまでに筆者等が開拓してきた超球モード解析と呼ぶ多体系の振動・回転運動の解析法をさらに発展させ、複雑分子系への多角的な応用を進めた。また、DNAの2重らせん構造がもつ右回りの「らせんキラリティ」が、DNAの階層的折り畳み構造の形成過程で果たす役割について、理論的な解析を進めた。以上の結果は次の通りにまとめられる。 超球モード解析は、超球座標と微分幾何に基づく多体系の振動・回転運動の新たな解析法であり、複雑分子系における内部エネルギー移動や集団運動の発現機構の解明に役立つことが期待できる。超球モード解析の枠組みによれば、任意の多体系の運動は回転半径モード、ひねりモード、ずりモードの3種類に分類される。今年度は、これらモード間の動的結合の機構を詳細に検討し、モード間のエネルギー移動に見られる方向性を理論と数値実験により明らかにした。さらに、原子・分子クラスターを例に取り、特定のモードにエネルギーを注入してから、系に集団運動が発生するまでのエネルギー移動の経路を詳細に調べ、理論的に説明づける基礎を築いた。 上記に加えて、本年度は、DNAを始めとするらせん状高分子の高次構造形成における方向性(キラリティ)の選択機構に関する理論的解析を進展させた。特に、右回りのらせん構造を有する高分子は、曲げに際して、自発的に左向きによじれる普遍的な傾向があることを、数値実験だけではなく理論的にも示した。この結果は、生体高分子の低次のキラリティが高次構造のキラリティへと連鎖し得ることを示すものであり、キラリティを基軸とした生体高分子の階層的な設計原理の解明へ向けた第一歩と期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、超球モード解析法の理論的整備と多角的応用、およびDNAの高次構造形成における方向性(キラリティ)の選択機構の解析であった。超球モード解析については、多体系の変形モードに関する運動方程式の理論的解釈が進み、数値実験による裏付けも整いつつあるため、概ね順調と言える。また、DNAの高次構造形成機構の解析においても、DNAが有するらせんキラリティが本質的に重要な役割を果たしていることが理論・数値計算の両面で明らかになりつつあり、概ね順調といえる。
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Strategy for Future Research Activity |
超球モード解析を、分子の内部運動と回転運動の相互作用の解析に適用することで、分子系の集団運動におけるコリオリ相互作用の役割を明らかにすることは次なる重要な課題である。また、溶媒環境中における分子の集団運動を解析できるように、超球モード解析をさらに発展させることも重要な課題である。さらに、次年度は、生体分子モーターのモデル化と機能発現機構の解析を進める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、原子分子集合系や生体高分子などの高自由度系の数値計算を系統的に行うため、高速度計算機の購入を予定している。また、本研究は、分子科学、生命科学、応用数学などの分野に跨がる境界領域的な研究であるため、広い分野の文献の購入が必要となる予定である。また、本研究に参加する学生の研究資材(計算機、書籍等)の購入も予定している。また、本研究は、国内・海外の研究グループとの共同研究に基づく側面があるため、これらのグループと打ち合せをするための旅費が必要となる予定である。また、研究成果を国内、海外に広く公表するための学会出張旅費も必要となる予定である。
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Research Products
(2 results)