2011 Fiscal Year Research-status Report
相分離ベシクルの張力誘起構造転移と単分子膜結合挙動
Project/Area Number |
23740316
|
Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
濱田 勉 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 准教授 (40432140)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | 張力 / 相分離 / 脂質膜 |
Research Abstract |
生細胞膜では、細胞骨格等により膜張力が調節されており、張力は細胞機能を制御する主要な物理パラメータであると考えられている。また、近年、膜の組織化構造(膜ドメイン)が、シグナル伝達や小胞輸送などの重要な生体機能と密接に関係することが知られている。そこで、多成分脂質(コレステロール・飽和脂質・不飽和脂質)から成るベシクルを作製し、浸透圧により膜張力を変化させた際の膜ドメイン構造形成を解析した。顕微鏡観察実験の結果、張力が増加するにつれ、膜面が分離しドメインが生じることを発見した。また、高張力・低温度条件下では、ドメインが液体から固体へ相転移することを見出した。そして、張力をパラメータとする膜ドメイン安定性の相図を構築し、張力によるドメイン制御機構を明らかにした。本研究成果により、膜張力変化が、細胞膜の組織化構造を調節する重要な制御因子であることが分かった。 また、アルツハイマー病原因物質であるアミロイドβペプチドの膜作用を明らかにした。ペプチドの重合状態(オリゴマー、繊維)および膜ドメインの流動性(固体相、液体相)に依存して、ペプチドが作用する膜界面領域が変化することを見出した。オリゴマー構造のペプチドは、主に膜ドメイン以外の領域に分布した。これに対して、繊維構造のペプチドは、膜ドメインの物性に依存して、吸着挙動を変化させた。繊維は、液体ドメイン含有膜には吸着しないが、固体ドメイン含有膜のドメイン領域に局在する。この結果は、従来考えられてきた特異的な分子結合に加えて、より一般的な膜のソフトマター特性が、細胞膜の物質認識機能にとって重要な役割を果たしていることを示唆している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、膜張力が誘起するベシクル上の相分離挙動を明らかにし、研究成果をSoft Matter誌に掲載した。さらに、相分離膜に対するナノ物質相互作用の研究を展開し、相分離膜のソフトマター特性が物質との相互作用を決定することを見出した。この成果も、Soft Matter誌に掲載されており、当初の計画以上に研究が進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成23年度、相分離膜のソフトマター特性がペプチドとの相互作用を決定することを見出した。この成果は、生命機能に対する相分離膜物性の重要性を示していると考えられる。膜ドメインは、特定の生体分子を選択的に局在させ、効率的な細胞シグナル伝達の場として重要な役割を担っている。すなわち、ナノ物質のドメイン領域への局在・非局在のメカニズム解明は、シグナル伝達機能に関わる細胞内膜動態の理解に向けた重要な問題である。そこで、他のナノ物質(ナノ粒子およびDNA分子)に対して、膜相互作用の研究を進展させる。コロイド(ナノ粒子)やポリマー(DNA)物性を考慮に入れた膜との相互作用解析を行い、細胞膜の物質認識プロセスの統一的理解につなげる。 また、相分離構造安定性に関する理解を深めるため、荷電脂質による静電効果や2分子膜非対称性効果の観察・解析実験を行う。平成23年度に得られた張力実験の成果と組み合わせ、生体系における膜ドメイン制御の物理機構をソフトマター物性の観点から明らかにする。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度は、未使用額670,725円が生じた。未使用額が生じた主な要因は、研究を効果的に進めるため、海外学会への参加を見合わせてラボワークに仕事を集中させたスケジュール変更のためである。この未使用額は、平成24年度の物品費として使用する計画である。24年度は、23年度に得られた成果を基に、ナノ物質と相分離膜の相互作用解析に関する新たな実験計画を設定しており、物品費の増加が見込まれる。物品費として、1,170,725円を計画しており、ベシクル作製に必要な「脂質」、相互作用させるナノ物質に対応する「核酸(DNA)、ナノ粒子」、および膜ドメインやナノ物質を可視化するための「蛍光標識試薬」を含む。加えて、顕微鏡用スライドガラス・カバーガラス・試験管・フラスコ・ビーカーなどの「ガラス実験器具」、シャーレ・チップ・エッペンドルフ管など「プラスチック類」、顕微鏡像のデジタル録画データの保存に使用する「電子記録媒体」、顕微鏡システムを最適化するための「顕微鏡光学部品」を含む。また、情報発信を円滑に行うため、研究成果学会発表(日本物理学会、日本生物物理学会)の旅費として、300,000円を使用する。その他として、学術論文発表のための英文校閲費に、200,000円を使用する。
|
Research Products
(37 results)