2011 Fiscal Year Research-status Report
トラックエッチング膜とナノビーズによるラチェット膜および交流駆動電気浸透流ポンプ
Project/Area Number |
23740320
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
奥村 泰志 九州大学, 先導物質化学研究所, 准教授 (50448073)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 電気浸透流 / 電気浸透流ポンプ / 流動電位 / トラックエッチド膜 / ナノビーズ |
Research Abstract |
電気浸透流は、水などの液体と固体の界面に普遍的に生じる電気二重層において、液体側が外部電場により移動することで周辺の溶液が協同的に移動する現象であり、この現象をポンプとして活用したのが電気浸透流ポンプである。このポンプは小型で無音・無脈動なので、マイクロ流体チップ用ポンプとして応用されつつある。しかし直流電圧を用いるため、定常的な送液には水の電気分解を伴い、溶液のpHが変化して試料の変性を引き起こし、また発生した気泡が流路に混入し送液を妨げるという欠点がある。 電気浸透流ポンプを交流電場で駆動すると電気分解は起こらず、溶液の往復運動が誘起される。この往復運動を一方向の流れに変換する逆止弁を実現すれば、上記の欠点がない革新的な電気浸透ポンプが実現できると考えられる。本研究で申請者は、トラックエッチド膜の片側に、電荷を帯びた孔径より大きな球状のナノビーズを高分子スペーサーにより修飾し、水圧や電場の印加に対して高速にチャンネルを開閉し、溶液の整流作用を有するラチェット膜を実現する。そして、この膜に交流電場を印可して生じる交流の電気浸透流を整流して溶液が一方向に送液されるポンプ、すなわち交流電圧駆動の電気浸透流ポンプを実現することを目標にしている。本年度は、トラックエッチド膜をカラム下部に装着し、カラムに注いだナノビーズ溶液が膜を透過する速度を計測し、穴よりも大きなナノビーズ分散液を通した時には著しく透過性が低下することを確認した。そして、この膜を走査型電子顕微鏡で観察し、トラックエッチド膜がナノビーズによって塞がれていることを確認した。また、トラックエッチド膜に交流電場を印加し、交流の電気浸透流が誘起されることを見出した。更に、トラックエッチド膜の表面をゼータ電位測定装置により計測すると共に、膜内部のゼータ電位を、流動電位測定装置を自作することにより測定することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の実現にはナノビーズの分散性と帯電状態が弁の動作を支配する重要な因子になる。そこでアミノ基等の官能基を有する市販のナノビーズ及びその高分子修飾体はゼータ電位と粒径を確認した。また、トラックエッチド膜のゼータ電位は、ゼータ電位測定装置に平板用セルユニットを装着して計測した。また、研究計画には記載されていないが、膜表面のゼータ電位と膜の孔の内部のゼータ電位が異なる可能性があることから、新たに流動電位測定によって膜の孔の内部のゼータ電位測定を試みた。その結果、膜表面と膜の孔の内部のゼータ電位に大きな違いがないことを確認した。この流動電位測定を行うため、本来予定していた、膜の交流電気浸透流ポンプ特性の周波数依存性と、印加電圧に対する非線形性の検証が遅れているが、本研究を確実に遂行するためには膜の孔の内部のゼータ電位測定は優先順位がより高い研究だと考えている。次に、トラックエッチド膜をカラム下部に装着し、カラムに注いだナノビーズ溶液が膜を透過する速度を計測し、穴よりも大きなナノビーズ分散液を通した時には著しく透過性が低下して弁として機能することを確認した。そして、この膜を走査型電子顕微鏡で観察し、トラックエッチド膜がナノビーズによって塞がれていることを確認した。この結果は、トラックエッチド膜とナノビーズの組み合わせがラチェット膜を作成する上で良好であることを示している。また、トラックエッチド膜に交流電場を印加して誘起される電気浸透流を観察し、実際に交流電場によって交流の電気浸透流が誘起されることを確認した。この結果は交流駆動の電気浸透流の実現に直結するものである。以上より本年度は研究の目的の達成度としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ナノビーズの「目詰まり」を利用して細孔にナノビーズを吸着させた状態で高分子を修飾したナノビーズをトラックエッチド膜に縮合で固定する。未反応ビーズを洗浄して得られた膜の静的な圧力-透過性を測定し、ラチェット特性を確認するする。また、ラチェット膜を電極で挟んで電気浸透流ポンプを作製し、ポンプ性能を評価する。現状では厚さ10 μm程度で平坦な高分子フィルムで、50nm前後の円形細孔を有する膜と直径100nmのナノビーズの組み合わせを中心に考えているが様々な組み合わせでラチェット膜を作製し、その特性を評価する。ナノビーズ修飾の結果、トラックエッチド膜の透過性が失われてナノビーズが膜に強固に固定されていると危惧されるときは、電子顕微鏡で細孔を塞いでいるものがナノビーズであること、およびナノビーズが膜上でブドウのように塊を形成していないか確認する。そしてビーズを修飾した裏面から水圧を加え、またナノビーズを膜から剥がすように強いパルス電場を印可して、「順方向」の溶液透過性が回復するか検証する。それでもナノビーズが可動な弁として機能しないときは、膜へのナノビーズの化学修飾を回避し、トラックエッチド膜とセルロース系メンブレンの間にナノビーズを入れて、膜の縁を圧着して複合膜を調整する。セルロース系メンブレンの表面はスポンジ状なのでナノビーズによって流路を塞ぐことはないため、こちら側ではナノビーズは弁として機能しない。この2枚の膜間のナノビーズ濃度を高く保ち、ナノビーズがエッチド膜を塞ぐまでの時間、すなわちラチェット膜の応答時間を極力短くする。また、膜の表面電荷では十分な電気浸透流が発生しない場合には、従来の電気浸透流ポンプで用いられているシリカ担体とラチェット膜を一体化して、シリカ担体による電気浸透流の発生と膜による整流作用を組み合わせた交流駆動の電気浸透流ポンプを作製する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の研究計画ではサンプリング・オシロスコープ(テクトロニクス社・TDS2024B 型)とファンクションジェネレータ(NF Corporation社・WF1965 型)を購入する予定だったが、近隣研究室で使用されていない同等品が見つかり、その使用許可が得られたため購入に至らず、今年度予算の未使用額が大幅に増えることになった。一方で、トラックエッチド膜に関しては、最適な孔径の膜を探索するため、様々な会社から色々な孔径の膜を購入・評価した。次年度でも同様に様々な膜を購入し、それらの膜中のゼータ電位の絶対値の大きい製品の探索をする予定である。また、本年度は孔の内部のゼータ電位測定のために、流動電位測定装置を自作で作成した。しかし、流動電位を誘起するための圧力が不足しており、流動電位を測定中に膜の両側のpHの測定が必要となり、また電極の形状の最適化と膜と電極間の距離の最適化する必要が生じるなど、新たな技術要件を満たす装置が必要になった。そのため次年度に新たに流動電位測定装置を自作する必要性が生じた。よって次年度は、アクリル樹脂などを用いて新たな流動電位測定装置の作成を計画している。また、電圧印加系に要求される電流が不足した場合、高速バイポーラ電源の購入が必要になると考えている。
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