2011 Fiscal Year Research-status Report
繰り返し地震データから推定するプレート間カップリングの決定要因
Project/Area Number |
23740328
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 直希 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80374908)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
Keywords | プレート境界地震 / 繰り返し地震 / アスペリティ / 非地震性すべり / 応力降下量 |
Research Abstract |
平成23年度は波形の相関を用いた中規模繰り返し地震の抽出方法の開発とその適用を行った。過去の研究により地震間の距離とすべり域が精度よく分かっている釜石沖地震を用い,コーナー周波数付近のコヒーレンス値を用いる方法により中規模の繰り返し地震がうまく選別できることを確認した.具体的には,2つの地震のうちマグニチュードが小さい地震のコーナー周波数の1/2から2倍の範囲で40秒間の波形についてコヒーレンスを計算し,その値が0.8以上のものを繰り返し地震とみなせることが分かった.研究対象領域においては,2011年東北地方太平洋沖地震が発生したが,この方法を用いてこの地震前後の約25年間について解析を行った.大きな地震が多発し,小地震の解析が難しい東北地方太平洋沖地震後の期間については,この手法が特に有効であった.中規模繰り返し地震は,小規模の繰り返し地震と同様に,過去のM7クラスの地震や東北地方太平洋沖地震の大すべり領域には少ないことが分かった.また,得られた地震後のプレート境界での準静的すべりの履歴は,地震時すべり域に近い領域で急激なすべり増加および少し離れた領域で遅れたすべり増加を示すことがわかった.このうち陸域に近いプレート境界でのすべりは,陸上のGPS観測点で得られた変位とよく似た時間的推移をしている.これらの繰り返し地震から得られたすべりの推移は,実際のプレート境界の摩擦特性や準静的すべりによるすべり欠損の解放過程を知る上で重要なデータと考えられる.このように中規模繰り返し地震の抽出に一定のめどがついたため,今後プレート間カップリングの決定要因の研究のほかさまざまな研究の基礎とすることができると考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初は東日本大震災による大学・地震観測施設の被災によりその復旧に多くの時間を必要とし,研究が軌道に乗るまでに数ヶ月を要した.その後計算機の購入,および解析への着手をおこない,年度末には23年度の目標である波形の相関を用いた中規模繰り返し地震の抽出方法について実際にうまく適用できることが確認された.2011年東北地方太平洋沖地震の発生により,繰り返し地震によるプレート間カップリングの推定の研究上の新たな展開も見えた.これについて,Earth Planets Space誌に投稿し出版された(Uchida, N., and T. Matsuzawa, Coupling coefficient, hierarchical structure, and earthquake cycle for the source area of the 2011 Tohoku earthquake inferred from small repeating earthquake data, Earth Planets Space, 63 (No. 7), 675-679, doi:10.5047/eps.2011.07.006, 2011)
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに中規模繰り返し地震の抽出に成功したので,これと小規模の繰り返し地震を用いて,応力降下量や積算すべりについてプレート間のカップリングの空間変化と対応した変化を抽出する.特に,東北地方太平洋沖では,2011年東北地方太平洋沖地震が発生し,この領域において発生しうるすべての規模の地震が観測データの得られる数十年の間に発生したと考えられる.また,それのすべり量も詳細に推定されているため,リファレンスとなる実際のプレート間固着について,これまでとは比較にならない精度がよいデータが得られるようになった.これを有効活用し,固着の不均質性とその原因についての考察を行う.中小繰り返し地震から推定されるプレート境界すべりについても,2011年東北地方太平洋沖地震前後の周囲でのすべりの時空間変化を詳細に調べる.新たに発生した地震について,繰り返し地震の抽出を進め,研究の基礎となるデータの取得にもつとめる.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
新たなデータの解析のためのハードディスク(消耗品)の購入を行う.計算機については23年度に購入したのでそれを活用する.国内外の学会での発表・研究打ち合わせのために旅費を用いる.これらの学会や研究打ち合わせによる国内外の研究者との議論を通じ,研究の質をより高いものにしていく.なお,「次年度使用額」が生じた理由は,東北日本大震災により,旅費および消耗品の使用が少なかったためである.
|