2012 Fiscal Year Research-status Report
繰り返し地震データから推定するプレート間カップリングの決定要因
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23740328
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 直希 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80374908)
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Keywords | プレート境界地震 / 繰り返し地震 / プレート間カップリング |
Research Abstract |
中規模繰り返し地震を含めた繰り返し地震データを用いて,東北地方太平洋沖地震前後のプレート境界での準静的すべりの履歴の推定を行った.プレート境界を2011年東北地方太平洋沖地震時に大きくすべった領域,その隣接領域あるいは最大余震の隣接領域,さらに地震時すべり域から見て遠方に分けるとそれぞれに特徴的なすべりパターンが見られた.すなわち,地震前には,2011年の地震時に大きくすべった領域では,比較的頻繁にエピソディックなすべりの加速が見られた.一方その周囲では,比較的すべりレートが大きく,定常的なすべりあるいは数年~10年にわたる大地震の余効すべりが見られた.また,地震時すべり域の近のいくつかの領域では2008年ころからすべりの加速が見られた.2011年の地震後は地震時すべり域では,非地震性すべりが完全に停止したのに対し,その周辺では,地震時すべり域に近いほど大きく立ち上がりが鋭い余効すべりが見られた.これらはそれぞれの領域でのプレート間カップリングの状態の違いを示している. さらにプレート境界域の特性の空間分布について,本震前の地域・深さによる非地震性すべりの特徴の抽出を試みた.その結果,海溝近傍に大すべり域が存在し,陸に近い場所でも比較的,地震時すべりが大きかった領域では,プレート境界の深い場所(50-60km付近)まですべりレートが小さいのに対し,その南北に隣接する領域では,深さ35km付近から深さとともにすべりレートが大きくなる傾向が見られた.この深さとともにすべりレートが大きくなる深さ範囲は,沈み込むプレートが陸のプレートのマントルに接する場所に相当し,物質の違いがプレート境界でのカップリングの違いに影響していることを示唆する.また,宮城県沖の地震時すべりが大きかった領域の,深くまでの小さいすべりレートは,南北方向でのプレート境界の特性の違いを反映している可能性がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年の予算で購入した計算機のセットアップがほぼ完成し,様々な解析・研究に自由に使えるようになった.特に波形処理に関しては,古いワークステーション上で稼働していたいくつかのプログラムを書き換え,効率的に研究が行えるようになった.また,本予算の外国旅費による米国地質調査所へ滞在により,W. L. Ellsworth氏,S. Kirby氏らを訪問した.沈み込み帯浅部での地震活動や,速度の不均質性が大きい場合の震源決定等について,共同研究・研究打ち合わせを行うことができ,研究面での進展があった.また,岩手県釜石沖の中規模繰り返し地震について,2つの地震サイクルにわたる小地震の活動を調べた結果についてGeophysical Journal International誌に投稿し出版された(Uchida, N., T. Matsuzawa, W. L. Ellsworth, K. Imanishi, K. Shimamura, and A. Hasegawa, Source parameters of microearthquakes on an interplate asperity off Kamaishi, NE Japan over two earthquake cycles, Geophys. J. Int., 189, 999-1014, 2012.).この研究では,小地震の震源位置,断層サイズ,すべり量を正確に求めることで,アスペリティは階層構造をなし,地震活動は2つのサイクルで非常によく似ていることが分かった.また,地震時すべり域内外での地震活動の違い,アスペリティ内への準静的すべりの浸み込みとそれによる地震トリガリング現象,M4.9前後の地震の初期破壊点の位置を明らかにした.これらの結果は,小地震をアスペリティのカップリング状況のモニタリングに使用できる可能性を示す.
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Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた中規模繰り返し地震を用いて,応力降下量や積算すべりについてプレート間のカップリングの空間変化と対応した変化を抽出する.特に,2011年東北地方太平洋沖地震を発生させたと考えられる宮城県沖の大すべり域に関して,それに対応する固着域が地震前のデータから抽出できないか試みる.また多くの中規模繰り返し地震について,岩手県釜石沖の地震で見られたような地震サイクルに応じた地震活動の変化や繰り返し地震アスペリティのすべり特性等について検討する.また,新たに発生した地震について,繰り返し地震の抽出を進め,プレート境界でのすべりの時空間発展の推定の基礎となるデータの取得にもつとめる.さらにこれらの研究を総合して,プレート間カップリングを決定する要因について推定を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は,主に国内外での研究打ち合わせ・学会での発表のために旅費に用いる.これらの研究打ち合わせや学会での国内外の研究者との議論を通じ,研究の質をより高いものにしていく.また,研究成果を雑誌で発表し,社会に発信するために「その他」の費目で投稿料等を使用する.なお,「次年度使用額」が生じた理由は,データバックアップのためのハードディスクのための研究費を効率的に使用することができたためである.
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