2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23740334
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桜庭 中 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50345261)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 地球電磁気 / 流体力学 / 地球磁場 / 数値シミュレーション / 西方移動 / ジャーク |
Research Abstract |
1. コア対流の高解像度数値シミュレーションを、組成対流モデルをもちいて実施し、これまでの熱対流モデルの結果と比較した。組成対流モデルでは、コア表面付近において流れの鉛直成分が抑えられるため、子午面循環や帯状流が弱く、コア表面の低緯度付近のトロイダル磁場が顕著でなかった。結果として、組成対流モデルでは、現在の地球がもつような強い磁場や、磁気西方移動が再現されなかった。過去の理論的および地震学的研究から、コアの軽元素がコア表面付近に溜まって安定成層するという仮説があったが、本研究は、そのような安定成層がすくなくとも全球的には存在していない、ということを示唆する。この結論は、コア・マントル間の熱流量の大きさに対して、制約を与える可能性がある。この成果は、論文として発表すべく、現在とりまとめている。2. 熱対流モデルにおける磁気西方移動のようすをくわしく解析した。コア表面上のある緯度における磁場を、経度方向にフーリエ分解し、各成分の西方移動の位相速度を求めたところ、顕著な分散性がみられた。波数5程度の成分は、コア表面直下の帯状流による移流でおおむね説明できたが、低波数成分は、帯状流にさからって停滞する傾向がみられた。これは電磁流体力学的な波動で説明できる可能性がある。実際の地磁気データに対しても同様の解析をおこなうことで、そのような波動を可能ならしめる、コア内の流れや磁場の基本場に関する情報が抽出できるかもしれない。3. 熱対流モデルで計算された磁場データが、地磁気ジャークに似た変動をすることを見いだした。ただしジャークの発現頻度は、実際の地磁気のそれよりもかなり低いようである。磁気西方移動の解析では、各フーリエ成分が間欠的なふるまいをすることが見いだされたが、その時間スケールは、ジャーク発現の時間スケールと同程度であり、なんらかの関連性があることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 地球磁場の変動を計算機上で再現するためには、そもそもそのような変動を起こす基本場、すなわちコア内部の流れや磁場の空間構造を正しく再現しなければならない。その意味で、今年度おこなった組成対流モデルをもちいた数値実験は、地球コアの基本場を理解する上で、示唆に富む結果をもたらした。これは、今後の研究遂行に向けて、重要な成果であると考えている。2. これまでの地磁気西方移動の解析は、グローバルな磁場のパターンが時間とともにどれだけ移動しているか、という視点でおこなわれ、ただその緯度依存性が議論されているにすぎない。今回わたくしがおこなったようなフーリエ解析は、これまでの地磁気データ解析では(おそらく観測データの質や量の問題もあったであろうが)あまり注目されてこなかった。磁気西方移動を、帯状流による移流とそれにのった電磁流体波動としてとらえ、とくに波の分散性に着目して解析することで、コア内部の帯状流の構造や磁場強度に関する情報を得るという手法は、これまでのコア研究の進展状況に照らしても、新しいアプローチであると考えれられる。次年度の研究計画に、明確な方向性を与えたという点においても重要である。3. 地磁気ジャークに関するシミュレーション研究がこれまでほとんどおこなわれていない中で、かならずしも地球のジャークをよく模擬しているとはいいがたいけれども、それと性質の似た現象を数値モデルの中にとらえ、その発生原因について、ある程度の示唆が得られた点は、中間成果としては満足してよいものであると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に、当初の計画通りに研究をすすめる。まず、マントルの水平不均質を考慮しない、一様境界の熱対流モデルにおいて、磁気西方移動やジャークがどのように発現するかを、一般的な物理メカニズムを提示して、とりまとめる。磁気西方移動については、かなりの部分がすでに明らかになってきたが、たとえば、ある基本場(流れと磁場)を与えた上で方程式を線形化し、発生する波の分散関係をみる、といった、基礎的な研究も平行しておこなう方針である。ジャークの発生原因については、磁気西方移動、すなわちコアの電磁流体波動の変調としてとらえられる可能性が示唆されているので、その方向で研究をすすめる。つぎに、実際の地磁気データを説明するための研究をおこなう。地磁気データの解析と平行して、マントル最下部の熱流量不均質、および電気伝導度不均質をモデル化し、数値シミュレーションをおこなう。磁気西方移動やジャークの発現の局所性がいかにして起こるか議論する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の核である、コア対流の高解像度数値シミュレーションは、地球シミュレーター(海洋研究開発機構)においておこなう予定であるが、そこで得られる計算データを解析するためのワークステーションをさらに増強すべく、24年度夏頃をめどに導入する予定である。さらに国際学会の参加、論文投稿料などへの使用を予定する。
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Research Products
(6 results)