2011 Fiscal Year Research-status Report
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23740335
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
樋口 有理可 東京工業大学, 理工学研究科, 流動研究員 (90597139)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 太陽系 / 不規則衛星 / 小惑星 / 数値計算 / 天体力学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、木星や土星といった巨大惑星が保持する不規則衛星の起源を解明することである。平成23年度は主に、(1)前年度までに開発したコードでの数値計算、(2)新たなコード開発、(3)長周期彗星の軌道進化の計算を行った。(1)前年度に引き続き、太陽、木星、土星の3天体から重力を受けて運動する粒子(小惑星)の軌道の進化を計算した。前年度までには統計的議論のためには粒子数が不足していた領域に多数の粒子をつぎ込んだ。これまで制限3体問題で近似されることが多かった粒子の衛星軌道への捕獲を制限4体問題として扱った結果、その差が有意にあることを示した。具体的には、制限4体問題では木星回りの力学的に平衡な点のうち、対称と近似されていた2点の非対称性が強調され、木星の衛星軌道の捕獲は外側よりも内側からのほうが容易に起こることがわかった。すなわち、木星の内側にある小惑星が捕獲される可能性を支持している。ただ、彗星のような離心率の高い天体についてはまだ充分な計算はなく、外側からの供給を否定しているわけではない。(2)これまでのコードを改良し、彗星のような軌道分布をもった初期条件の生成、特定の天体群として存在する時間を記録するプログラムを作成した。現在、このコードを使ったテスト計算を進めると同時に、粒子同士の遭遇確率を出力できるよう更なる改良を進めている。(3)本研究に先立ち行っていた長周期彗星の軌道進化の計算コードを利用し、長周期彗星が小惑星帯などの太陽系内部に軌道進化する可能性を調べた。その結果、長周期彗星から木星より内側の軌道に進化する粒子はほとんどなく、またそれら粒子の滞在時間も非常に短いもので、木星・土星の衛星に進化する確率は極めて低いことがわかった。今後も引き続き同様の計算を行い、不規則衛星形成に重要な過程であると考えられる衝突の確率などにつながる計算結果を出す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に述べた研究実績と照らし合わせながら研究目的達成度を以下に述べる。(1)前年度までの計算コードをもとにした計算は、とにかく計算粒子数を稼ぐことを目的とし、他の研究の合間を縫って昼夜問わず計算を流した結果、統計的議論にある程度十分な計算量を得られた。前年度までには想定していなかった範囲にまで初期条件を広げたために当初の予想以上の時間を必要としたが、それでも前年度内に納めることができたので目標は達成できたと言える。(2)前年度までの計算結果から、より詳しく調べたい条件や情報が特定できた。それらを実現するためのコード改良は、一部は終了しているが、一部は終了していない。それは、これまでの1粒子ずつの計算では必要な情報が得づらいため、多数の粒子を同時に計算するという一部大幅なコード改良が必要なためである。この点は少しだけ予定よりは遅れていると言える。(3)並行して行っていた長周期彗星の軌道計算の結果より、長周期彗星が太陽系内部に与える影響を定量的に見積もることができた。この結果は本研究に非常に重要な示唆を与える。この結果を利用し、本研究の計画を立てる時点では考慮に入れていなかった新しい視点で不規則衛星の起源を議論することができるようになった。多少のコード改良が必要になったが、これは当初の想定を超える成果と言える。以上をまとめると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の具体的な計画は以下のとおりである。(1)引き続き小惑星の軌道計算を行う。主に、ヒルダ群と呼ばれる小惑星群の進化に着目する。小惑星帯から巨大惑星領域への進化だけでなく、そのほかの外部/内部領域への進化もあわせて調べる。そのために、これまでより長期にわたる軌道進化を計算する。(2)不規則衛星候補が不規則衛星に進化する過程を計算する。ここでは小惑星だけでなく、離心率の高い軌道を持つ彗星なども考慮する。この不規則衛星捕獲過程を計算するにはこれまでに考慮していない新たな摂動を加える必要があるが、現時点では、候補天体同士の衝突、規則衛星の重力、巨大惑星の潮汐力等を考えている。コード改良を進めつつ、それらの摂動が粒子に働きうる確率などをこれまでの結果から解析的に調べる。(3)小惑星ないし不規則衛星の観測を進めるべく、観測提案書を作成する。このためには他研究機関の観測系研究者の協力を得る予定である。不規則衛星形成の理論につながるような、天体の物理情報を得ることができる観測ができればよいと考えている。仮に、不規則衛星の起源に直接関係のない小惑星や彗星であったとしても、間接的には情報は引き出せるので積極的に観測に関わっていきたいと考えている。また、平成23年度は効率的に研究費の使用ができたため、また東日本大震災の影響で中止・延期になった国際会議があったため、23年度に予定していた利用を24年度以降に繰り越し、引き続き効率的な科研費利用を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、国内の惑星科学会、天文学会、日本と欧州で行われる国際会議などに参加し成果を発表する。また国内で開催される研究会には積極的に参加する予定である。物品としては、大量の数値計算に必要な計算機または外付けハードディスクを必要に応じて購入する。以上を併せて旅費としておよそ80万円、物品費としておよそ30万円、論文投稿料など、その他としておよそ10万円を使用する予定である。
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