2013 Fiscal Year Research-status Report
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23740335
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
樋口 有理可 東京工業大学, 理工学研究科, 流動研究員 (90597139)
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Keywords | 太陽系 / 不規則衛星 / 長周期彗星 / 小惑星 / 数値計算 / 天体力学 |
Research Abstract |
本研究の目的は、木星や土星といった巨大惑星が保持する不規則衛星の起源を解明することである。平成24年度は主に、(1)永年軌道進化を考慮した惑星摂動のプログラムの開発と実装、(2)(1)のコードを使った数値計算、(2)前年度に引き続き長周期彗星の軌道進化の計算を行った。 (1)Laskar(1988)は、太陽系のすべての惑星の軌道の永年進化をフーリエ級数で与えた。その結果を計算するプログラム(Ito1992による)を発展させ、これまでのプログラムに実装した。結果、すべての惑星を計算に含めなくともすべての惑星の重力の影響を反映した惑星の軌道が与えられるため、それらの影響で軌道進化する小天体は間接的にすべての惑星の影響をうけていることになる。具体的には、惑星は互いの重力により数万年からそれ以上の周期で軌道要素が振動する。この軌道が時間進化する惑星のもとでの粒子の軌道進化を計算した。その結果を円軌道惑星を使った計算結果と比較し、惑星軌道の永年進化が小惑星の軌道進化に与える影響を明らかにしたのが(2)である。具体的な結果としては、軌道が円軌道でない場合は、小惑星の捕獲率が下がること、しかしより広範囲の小惑星が不規則衛星の候補となりうることがわかった。また、火星に一時的にであっても捕獲された小惑星はなかった。このことは、火星の衛星の小惑星起源に否定的な結果である。ただし、火星のヒル圏内を通過する小惑星は多数確認されたため、これらが更に他の力を受けて火星に捕獲された可能性は残している。(3)長周期彗星が小惑星帯などの太陽系内部に軌道進化する可能性を引き続き調べた。本年度は主に、恒星が太陽の比較的近傍を通過した際に大量発生した長周期彗星のその後の長期軌道進化に着目した。その結果、このような彗星の1%程度は、その寿命のうちに一度は地球近傍小天体に分類される軌道に入ることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に述べた研究実績と照らし合わせながら研究目的達成度を以下に述べる。 (1)(2)前年度までの計算コードをもとにした計算は、惑星の軌道が円軌道に限られていたため、特に長期計算に置いて、現実の太陽系との誤差がどの程度影響するかわからなかった。N体計算を行うのではなく、Laskar(1988)の解析解で惑星軌道進化を与えることにより、惑星軌道進化の影響を前年度までの結果と比較しやすいものにすることができた。このLaskarの計算コードは共同研究者の1人が約20年前に書いたもの(Ito 1992)をもとに、去年までのコードに組み込めるよう改変した。また、国立天文台の計算サーバを使うことによって、去年よりもずっと大量の粒子の計算を長期にわたり、行うことができた。また、これまでは木星と土星の影響のみを考慮していたが、火星を足すことができ、またLaskarの解によって、計算には入れていない惑星の影響を間接的に考慮することができた。(3)並行して行っていた長周期彗星の軌道計算の結果より、長周期彗星が太陽系内部に与える影響を定量的に見積もることが出来た。 コメットシャワーの影響を考えることで、いわゆる木星バリア、土星バリア(巨大惑星が外部からの彗星侵入を遮り、地球などの内側の惑星を天体衝突から守っているというアイデア)の影響を示すことができた。 以上をまとめると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の具体的な計画は以下のとおりである。 (1)引き続き小惑星の軌道計算を行う。昨年度までに加え、火星周辺への小惑星の進化に着目する。 (2)解析的な天体力学的手法を用いて、土星の外側移動が対木星のゼロ速度曲線に与える影響を調べる。ゼロ速度曲線とは粒子の運動可能領域を示すもので、円制限3体問題では解析的に求めることができる曲線である。そこに、土星の摂動を加えた解を求める。その後、土星の位置の変化とゼロ速度曲線の変化を調べる。最近の研究では、木星は少し内側に、土星は外側に移動したと考えられているが、この移動が粒子に与える影響を保存量の変化を用いて表す。ゼロ速度曲線の変化のみで、一時捕獲が永年捕獲に進化する過程を考える。(3)小惑星ないし不規則衛星の観測を進めるべく、観測計画に参加する。現時点ではチリの大学のグループが提案している、小天体の色を観測する計画のメンバーとなっている。これまでの計算で扱っている小惑星よりは遠方の天体がターゲットであるが、不規則衛星の起源がそこにあるとする先行研究も多いため、その研究結果と併せて議論できる結果が得られれば、我々の小惑星起源の研究を別の角度から検討することができる。 また、本年度は3年に一度の小天体の大きな国際会議(Asteroids, Meteors, Comets)が開催されるため、そこでこれまでの研究成果を発表することを予定している。以上の予定で引き続き効率的な科研費利用を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
使用予定額を下回った理由は主に以下の2点である。 まず、2回の海外出張(アムステルダム、新竹)において、訪問先から滞在費を支給してもらえたために、科研費からの旅費支給額を減額することができた。 次に、研究上の都合によりデスクトップPCの買い替えを本年度に延期した。 昨年度に購入を予定していたデスクトップPCを購入する。
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