2012 Fiscal Year Research-status Report
初期値化による再現・予測データを活用した北太平洋フロント域の十年変動プロセス研究
Project/Area Number |
23740362
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
望月 崇 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球環境変動領域, 特任主任研究員 (00450776)
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Keywords | 地球温暖化 / 気候予測 / データ同化 / 太平洋十年振動 / 大西洋数十年振動 / 海洋前線 / 大気海洋相互作用 |
Research Abstract |
本研究課題の特色は、十年規模気候変動のプロセスを明らかにする試みにおいて、再現・予測データを活用することである。十年規模気候変動をターゲットにした再現・予測データを解析して統計的に有意な結果を得るためには、地球温暖化のような気候システムに対する外部強制に対する応答成分をどう扱うか、と、他の現象よりもシグナルノイズ比が小さいのでシグナルをどのように抽出するか、に特に注意を払わなければならない。これらに対処するために、気候モデルMIROC5を用いた再現・予測データに対して手のこんだ統計手法を適用して、海洋フロント域の予測誤差解析をおこない、結果を学会発表するとともに査読付き雑誌に投稿した。 まず、黒潮親潮続流域(亜寒帯フロント)の予測誤差に対するアリューシャン低気圧の寄与、より元をたどれば、赤道太平洋の海面水温変動からの遠隔的な寄与の重要性を指摘した。これは、たとえ十年規模気候変動に注目しても、エルニーニョ現象のような短期現象にまつわるプロセスが重要であることを示している。それに加えて、ハワイ諸島の北西方海域(亜熱帯フロント)の予測誤差については、周辺海域の初期水温場が大きな影響をもつことがわかった。以前の大局的な解析では海洋大循環にまつわる水温変動が予測可能性の実現に最も重要な役割を果たすことを示したが、予測誤差に大きく影響するのは上流の水温場というよりはモデルにおける亜熱帯フロント域を含む広い海域の構造であることを指摘した。ここでの再現・予測実験の初期水温場はアノマリ同化手法を用いて作られていることに注意すべきであるが、モデルによる海洋フロント構造の表現が予測のポイントになるという予測誤差解析結果は、プロセス研究だけでなく気候予測研究の観点からも興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で研究期間内に明らかにしようとしているのは、北太平洋中緯度(黒潮親潮続流域とハワイ諸島の北西方海域)の十年規模変動の物理プロセスである。これらについて、初年度はまず大局的な知見を得た。概略とはいえ、十年規模変動の全般的な予測性能と予測可能性を実現するような物理プロセスを明らかにして、結果は査読付き投稿論文として印刷された。十年規模変動のメカニズムとして重要だと思われるプロセスがいくつか提唱されているが、どのようなプロセスが予測可能なのか、また十年規模変動のひとつの重要な指標である太平洋十年振動指数の再現・予測に大きく寄与しているのか、といったものは実際に十年規模変動の予測実験をやってみなければわからなかったことである。 次に、特にCMIP5に提供しているMIROC5再現・予測データを詳細に調べて、予測誤差に大きく関係するプロセスを明らかにし、結果を査読付き投稿論文として投稿した。結果の統計的有意性について特に注意を払うべき研究対象であるが、予測可能性が主に中緯度海洋の力学で実現されていたのに対して、予測誤差については熱帯からの遠隔の影響やデータ同化時のモデルによるフロント構造の表現の重要性を指摘した。熱帯から影響は太平洋十年振動を実現するために果たす役割が小さくないと考えられているものであり、ここではやはり重要なプロセスであるということが予測可能性という観点から実証された。一方、モデルによる海洋フロントの表現の悪さが海洋フロント域の変動プロセスにどのような影響を与えているのかはここでははっきりとしていない。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで予測可能性を実現するプロセスと予測誤差に大きく影響するプロセスを明らかにしてきた。注目すべきことのひとつは、ハワイ諸島の北西方海域に周辺海域において、周辺海域の初期誤差が亜熱帯フロント域の予測可能性に大きく影響していることである。気候モデルにおける表現、とりわけフロント構造が観測値と比べて、初期値(データ同化結果)、再現・予測結果においてどのように表現されているか、予測時間が進むにつれてどのように変化していくか、を調べることは、十年規模変動の変動プロセスや気候予測の観点からポイントになる。特に、当該海域の鉛直構造や水塊について、観測、同化、予測、の三者がどう似ているか/異なるかを詳しく比較することは有意義であろう。この方向性については当初からの計画通りに研究を実施すればよいだろう。またもうひとつの有意義な話題は遠隔の影響であるので、太平洋域にとどまらずインド洋や大西洋からの影響の可能性も排除することなく、これらの解析をおこなう。 なお、本研究ではMIROCモデルグループが気候再現・予測データの提供を目的に実施した実験結果を使用しているが、本研究とは別に気候モデルMIROC5を用いた十年規模変動の再現・予測実験は今もなお実施し続けている。もしそのなかで有用なデータが増やされていくようであれば、それら追加実験/最新実験の解析も本研究に取り入れていくことを視野に入れて本研究を実施する。とは言え、本研究は最終年度を迎えるので内容が発散することがないよう留意し、研究成果をまとめて学会発表するとともに投稿論文にまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
十年規模気候変動はプロセス研究だけではなく予測研究としてもホットな分野のひとつなので、北太平洋海洋科学機構や十年規模変動コミュニティの会合などの場において、国際的な情報発信をこまめにおこなっていくことが重要である。また十年スケール変動(北海道大学など)やデータ同化(京都大学)といった当該分野で日本が世界をリードしている分野の研究者たちとの情報交換も重要である。特に、十年規模気候変動の研究コミュニティにおいては、CMIP5へのデータ提供が一段落ついた今、これからどういった話題が広く扱われていくのか、欧米を中心として世界の状況を注視していく必要がある。最終年度を迎え、研究成果発表や論文投稿に関わる費用が必要であり、特に国際誌に投稿する際には英文校閲が重要でありそのための費用が必要である。 より詳細な解析をおこなうには,気候モデルの出力そのものは座標や物理量の点で必ずしも適したものではないため,加工した大量のデータを格納・読み書きするための大容量磁気記憶装置やそれらを解析するために性能の高い解析用計算機が求められる。例えば、海洋の水温と塩分のモデル出力データから海洋の熱量データファイルを作成するだけでもそのデータ量は膨大である。また、細かい点をあげると、予測リード時刻ごとに統計的な解析をおこなうことは予測データ解析において非常に多く使われる手法であるが、その場合に毎回個々の予測データファイルに直接アクセスしているとそれだけで計算時間を浪費してしまうので、あらかじめ予測リード時刻ごとのファイルを作成して効率よく解析を進める必要がある。既存の磁気記憶装置も活用しながら研究費の節約に努めてきたが、活用できる再現・予測データ量が研究開始当初よりも大幅に増加してきており、それにともない加工データ量も次第に増えてきている。
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Research Products
(4 results)