2011 Fiscal Year Research-status Report
サブメソスケールモデルを用いた黒潮沿岸域での暖水波及とシラス漁場形成機構の解明
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23740365
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
黒田 寛 独立行政法人水産総合研究センター, 北海道区水産研究所生産環境部生産変動グループ, 研究員 (30531107)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本南岸沖黒潮域 / サブメソスケール変動 / シラス漁場形成 / 暖水波及 |
Research Abstract |
大容量記憶装置を設置して、計算機環境の基盤整備を実施し、20TB以上の十分な記憶領域を確保した。スペクトル緩和法とIAU法を組み合わせたScale-selectiveなデータ同化手法を用いて、黒潮域サブメソスケールモデルの開発に着手した。本手法を用いることで、かなり広い計算領域であっても、サブメソスケールモデルに含まれるメソスケール変動の挙動を逐次修正することが可能になる。モデルのプロトタイプが完成し、2008-2009年を対象とした感度実験を実施した。この感度解析では、海洋モデルのパラメータ(水平粘性係数など)だけではなく、同化モデルのパラメータ(スペクトル緩和法の平滑化空間スケール、IAU法の時間スケール、修正を施す深度など)を変更し、その出力を定量的に解析・比較した。最良の結果として判断されたモデル出力と、収集・整理した海洋観測資料(0.01°の高解像度GHRSSTや沿岸水位データなど)を比較したところ、潮岬~房総半島沖で発生する典型的な暖水波及を再現できることがわかった。しかし、暖水波及のタイミングは観測よりも数日から一週間ほど遅れる傾向がある。それゆえ、次年度以降もモデルスキームや同化手法の改良を継続する必要がある。これら本年度の成果は11月に函館で開催された水産海洋学会で公表し、2012年6月にイタリアで開催されるECSA 2012でも発表予定である。さらに、2012年2月には、神奈川県水産技術研究所と打ち合わせを実施し、操業海域や漁場形成に関連した資料の収集を行い、シラス輸送モデルの条件設定とモデル出力の妥当性を判断するための基盤を整備した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の計画は全て達成しており、研究の進行は順調であると判断している。特筆すべき点は、モデルを構築するにあたり、スペクトル緩和法とIAU法を組み合わせた新たな計算技術を導入したことである。本課題の計画当初では、側面境界条件のみでサブメソスケールモデル中のメソスケール変動を制御する予定であったが、シラスの分布海域に合わせてモデル領域を拡大したところ側面境界条件による制御だけでは不十分であることが分かった。本手法とよく似た手法は、大気領域モデルではすでに導入されているが、海洋モデルへの適用例は少なく、海洋分野では新しい研究・技術の進展と考えられる。また、研究協力者(千葉県水試や静岡県水試)との連携も順調に進めることができた。これにより、房総半島沖での急潮時の流速変動特性や、静岡県沿岸でのシラス漁場分布に関する情報を得ることができ、次年度以降予定している、海洋モデルのさらなるブラッシュアップとシラスモデルの構築に役立てられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、サブメソスケールモデルの開発を進める。さらに、開発したサブメソスケールモデルの出力を解析して、典型的な暖水波及の発生過程や暖水の沿岸域への波及機構について考察を行う。また、シラスの来遊経路や収束域(沿岸漁場)を特定するために、粒子追跡関連の技術開発を集中的に行う。例えば、リアプノフ指数を応用した手法(FTLE)や双方向の時間を考慮した粒子の逆追跡手法の開発を検討している。平成24年度の後半には、サブメソスケールモデルの流動場を用いて、シラスを模した粒子追跡実験を開始し、シラスの来遊経路の確率的な推定と沿岸漁場の形成機構を究明する。また、国内外の学会や県の水産試験研究機関が参集する会議の中で本研究の成果報告を行い、暖水波及の機構などの力学的な研究結果については投稿論文にまとめる計画である。一般市民への研究成果の公表と還元のために、水研センター内のサーバーを利用して本研究に関するホームページを作成することも検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H23年度予算の繰り越し分(\850,000)のうち\450,000は、H24年度から本課題で主に使用する計算機のUPSの購入と設置・設定費用に割り当てられ、残り\400,000は、H23年度成果を報告するための外国出張旅費に割り当てられる。前者については、当初の計画とは異なる使用ではあるが、研究担当者がH24年度より横浜から北海道に職場が異動になったため、新しい計算機環境を整備する必要があり、安定した計算のためにUPSの設置は不可欠な状況である。また、H24年度予算(\700,000)の使用としては、H23年度にモデル領域を当初計画よりも大きくしたため、予定以上の記憶領域が必要になることから、H23年度に購入した同型のNAS (\400,000)をもう一台購入する計画であり、残りの予算(\300,000)は研究打ち合わせと成果公表のための旅費に割り当てる。
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Research Products
(1 results)