2011 Fiscal Year Research-status Report
中期古生代の放散虫絶滅事変:種群交代と環境要因から探るプランクトン生態系の変革
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23740376
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
栗原 敏之 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (10447617)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 放散虫 / プランクトン / 中期古生代 / デボン紀 / 大量絶滅 / 黒瀬川帯 / モンゴル |
Research Abstract |
本研究では,前期デボン紀における大量絶滅を伴った放散虫の変遷過程を明らかにすることを目的として,交付申請書記載の研究計画に基づき,日本とモンゴルの中期古生代珪質岩を対象に群集組成の変化,時間スケールおよび環境要因を検討している. 本年度は,古太平洋西縁の陸域近傍で形成されたと考えられる黒瀬川帯の下部デボン系横倉山層群中畑層において野外調査と放散虫化石の層序分布の検討を行い,次の結果が得られた.すなわち,中畑層の下部においては後期シルル紀から繁栄していたZadrappolus属などのInaniguttidae科が卓越し,より上位の層準になるとそれらは徐々に衰退し,代わりにPalaeoscenidiidae科(Pactarentinia,Tlecerina属など)が急速に繁栄するという現象(動物群のターンオーバー)が認められた.これは前期デボン紀における放散虫の変遷過程の実体を明らかにするデータとして重要である. 本年度はまた,モンゴル中央部ハンガイ-ヘンテイ帯ウランバートルテレーンのゴルヒ層を対象に野外地質調査を行った(平成23年8月4日~12日).遠洋性堆積物(放散虫チャート)~半遠洋性・陸源性堆積物の詳細な層序と岩相変化について主に検討した.岩石試料の採取を行い,室内作業の結果,後期シルル紀~後期デボン紀のコノドント化石・放散虫化石を検出している.特にPalaeoscenidiidae科Tlecerina属の最終産出とEntactiniidae科の出現について,層序分布の検討を行うことができるセクションを見いだしたので,目下詳細に検討中である.これと並行して,蛍光X線分析装置による放散虫チャートと半遠洋性・陸源性細粒砕屑岩の主要元素と微量元素濃度の測定を進めている.これまでに2セクション37試料について測定し,現在その解釈を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書では目的達成のための研究項目として,次の2点を挙げた.すなわち,(1)西南日本黒瀬川帯の上部シルル系~中部デボン系およびモンゴル中央部ハンガイ-ヘンテイ帯の上部シルル系~デボン系遠洋性堆積物(チャート)における放散虫の層序分布と群集組成,(2)年代が決定した堆積岩における主要・微量・希土類元素の測定による,化学組成からの堆積場の検証と海洋環境の変動,を検討することである. 研究実績の概要で記した通り,(1)については計画に従い海外・国内の地質調査を行っており,また,コノドントはまだ十分な個体数が得られていないものの,放散虫化石については新知見が得られている.(2)については,現在,試料の分析を進め,酸化還元環境の指標となる微量元素・希土類元素(V,Cr)の挙動を検討している.これまでのところ,海洋環境の変動を示す有意なデータは得られていないが,測定自体は順調に進められている. 研究成果の一部については,平成23年9月19日~24日にオーストリアグラーツで開催されたOpening Meeting of IGCP 596 (Climate change and biodiversity patterns in the Mid-Paleozoic) にて発表しており,全体としておおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成23年度は,黒瀬川帯の下部デボン系横倉山層群中畑層の検討から新知見が得られたので,当初の平成24年度計画にあった熊本県砥用地域洞ヶ岳層・内大臣層の検討を変更し,横倉山層群中畑層の検討の継続および高知市鴻の森地域に分布するその相当層についての検討を行う.これらを対象に前期デボン紀の放散虫群集の変遷を重点的に検討し,飛騨外縁帯・南部北上帯の生層序研究と比較し,日本のシルル紀~デボン紀放散虫の産出期間,年代論,群集変遷の特徴を総括する.モンゴル中央部ハンガイ-ヘンテイ帯ゴルヒ層の遠洋性堆積物については,平成23年度調査で十分な試料採取が行えており,平成24年度第1四半期にそれらの化学組成の測定を行う.特に,平成23年度には行っていないICP-MSによる希土類元素の分析を行う.その後,検討した層序断面において取得した生層序データと化学組成データを総合し,酸化還元環境,海洋底の火成活動・陸源物質からのインプットの評価および堆積環境について,時代毎の推移を総括する. 以上,後期シルル紀~中期デボン紀における放散虫の消長と外部環境の変化に対する応答を,群集組成と堆積岩化学組成の統合から考察し,大量絶滅事変としての実体を明らかにしていく.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は交付申請書記載の各費目内訳に従い研究費を使用する. 物品費は,研究計画調書記載の消耗品の購入に使用する. 旅費について,交付申請書では,平成24年度にモンゴル中央部ハンガイ-ヘンテイ帯ウランバートルテレーンゴルヒ層の未調査地域の踏査を計画していたが,平成23年度の地質調査で十分な観察と試料採取を行うことができた.よって,当初の計画を変更し,国内(黒瀬川帯横倉山地域・鴻の森地域)の調査旅費に用いる.なお,平成23年度は購入物品の金額が予定していた額を下回ったため,60,000円の次年度使用額が生じた.これを平成24年度の旅費に合算し使用する. 人件費・謝金については,新潟大学理学部地質科学科所有の蛍光X線分析装置(RIX3000)および新潟大学大学院自然科学研究科所有のICP-MS(Agilent7500a)を使用する際の分析補助者の謝金に使用する.
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[Presentation] Late Silurian to Devonian pelagic facies in the Khangai-Khentei belt, central Mongolia (Central Asian Orogenic Belt) and its radiolarian age.2011
Author(s)
Kurihara, T., Tsukada, K., Otoh, S., Manchuk, N., Matsumoto, A., Sersmaa, G., Minjin, Ch.
Organizer
Opening Meeting of IGCP 596 (Climate change and biodiversity patterns in the Mid-Paleozoic)
Place of Presentation
オーストリア,グラーツ
Year and Date
2011年9月20日