2011 Fiscal Year Research-status Report
コマチアイトからみたマントルプルームの脱ガス史―スピネル中メルト包有物からの制約
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23740381
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
清水 健二 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 研究員 (30420491)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | メルト包有物 / コマチアイト / 二次イオン質量分析計 / 揮発性成分 / マントルの脱ガス史 |
Research Abstract |
マントルの脱ガス史の解明はマントルの熱的物質的進化史や大気海洋組成の変動に束縛条件を与える上で最重要要素の一つであるがほとんど何も分かっていない。というのも古い火山岩中の揮発性成分の定量的な見積もりは非常に困難であるからだ。火山岩に含まれるクロムスピネルのメルト包有物の研究は初生マグマの揮発性成分を見積もる上で大変有効であることを申請者が示し、その分析手法を確立した。本研究は27億年前と35億年前のコマチアイトに含まれるクロムスピネル中のメルト包有物の揮発性成分、主要、微量成分を分析し、これまでに行った研究結果と併せて、マントルプルームの脱ガス史に関して制約を与えるというものである。大量の採取した岩石試料からすでに選定してあるコマチアイトからクロムスピネルの分離を行い、平成23年度に購入した偏光顕微鏡を用いてクロムスピネル中のメルト包有物の記載を行った。ウッズホール海洋研究所のSIMS-1280を用いて、記載したメルト包有物の揮発性成分を分析する予定だったが、見つかったメルト包有物は最大でも15ミクロン程度と非常に小さく、精度よく分析が出来る30ミクロン以上のメルト包有物の発見には至らなかった。引き続きメルト包有物の探索を行う予定である。これまでに見つけた小さいメルト包有物はより微小領域の分析が可能な海洋研究開発機構高知コア研究所に平成23年度に導入されたNano-SIMSを用いてこれらのメルト包有物を分析する予定である。しかしながら、揮発性成分の分析法をNano-SIMSで確立しないと分析できないので、今年度はこの分析法の開発も同時に行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は35億年前と27億年前のコマチアイト中のクロムスピネルに含まれるメルト包有物を探し、ウッズホール海洋研究所のSIMS-1280にてそのメルト包有物の揮発性成分の局所分析を行う予定であった。しかし、見つかったメルト包有物は今のところ最大でも15ミクロン程度と非常に小さく、ウッズホール海洋研究所のSIMSで精度よく局所分析が出来る30ミクロン以上のメルト包有物は見つからなかった。また、常圧電気炉で焼き鈍し均質化したメルト包有物を測る予定だったが、焼き鈍している最中にメルト包有物中の水がホストのクロムスピネルを通じて外に逃げ出してしまうことも本研究で分かったので、これからは焼き鈍し実験を行わず、分離したクロムスピネルをそのままマウントしてメルト包有物を探す。メルト包有物は大抵急冷結晶が晶出しているのでガラス質の大きなメルト包有物を探すのはさらなる困難を有する。従って平成23年度はコマチアイトからクロムスピネルを分離することとメルト包有物を探し、そのメルト包有物の一次的な記載とEPMA分析のみとなり、当初予定していた揮発性成分の分析までは出来なかった。また、ウッズホール海洋研究所で行う予定であった揮発性成分の分析は、メルト包有物が小さすぎるために出来ないことも分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
コマチアイトに含まれるメルト包有物は非常に小さく、当初揮発性成分の分析を予定したウッズホール海洋研究所では分析できないことが分かった。さらに分離したクロムスピネルを焼き鈍し、均質化したメルト包有物は元の含水量が減ってしまうので、焼き鈍し実験は行わず、分離したクロムスピネルをそのままマウントしてガラス質なメルト包有物を探すということをしなければならないことも分かった。まず、サイズの比較的大きいガラス質なメルト包有物を探すということだが、これはひたすら時間と労力をかけるしか方法はない。このために効率的にメルト包有物を見つけるさらなる方法を確立する必要がある。10ミクロン程度のメルト包有物の揮発性成分を分析するには海洋研究開発機構高知コア研究所に平成23年度後半に導入されたNano-SIMSを用いる予定である。Nano-SIMSは、他のSIMSよりも高真空度で微小領域(直径10μm以下)の分析ができる。しかしながらこの装置で揮発性成分の分析法の確立している研究所は世界中でも1カ所のみであり、非常にチャレンジングな研究である。まず、分析目的成分(水、二酸化炭素、フッ素、塩素、硫黄)が既知で様々な濃度のスタンダードガラスを用意することである。そのために東京工業大学のガス圧炉、ピストンシリンダーなどで火山ガラスを作成し、海洋研究開発機構のFTIR、イオンクロマトグラフィーなどでガラスの揮発性成分の濃度を決定する。様々な揮発性成分の含有量を持つ標準ガラス試料をNano-SIMSで分析し、検量線を引いて分析法の確立をする。その後、コマチアイトに含まれるメルト包有物に応用し、マントルの脱ガス史を議論する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
揮発性成分分析用の標準ガラス作成は、脱ガスするために常圧炉では出来ない。よって白金カプセルなどに出発物質(揮発性成分の入った玄武岩組成の試薬)を入れて密封した状態でガス圧炉、ピストンシリンダーなどの装置を使い圧力をかけたまま溶融し、均質化する必要がある。このための消耗品や試薬を本研究費にて購入する予定である。また、生成したガラスのF, Cl, Sの含有量を求めるために、加水熱分解をしてイオンクロマトグラフィーにて分析する。そのために必要な超高純度の試薬や試料容器(白金ボート)などの消耗品を購入する。Nano-SIMSの分析には高知コア研究所まで複数回、長期にわたって出張する可能性が高いためにその旅費として使用する予定である。メルト包有物、スタンダードをマウントして研磨し観察する(スタンダードガラスはH2O, CO2をFTIRで分析する)ために、試料研磨に用いる樹脂や研磨紙、研磨材などに科研費を使用する。本研究で得られた成果を学会で発表し、論文を学術雑誌に投稿するために参加費や旅費、また論文校正、投稿料を本研究費で支払う予定である。
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