2011 Fiscal Year Research-status Report
三葉虫の稜線構造と行動特性の関係:接触感知機能による外界情報認識システムの解明
Project/Area Number |
23740384
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
鈴木 雄太郎 静岡大学, 理学部, 講師 (50345807)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
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Keywords | 機能形態 |
Research Abstract |
三葉虫の外骨格上に分布する外界情報の認知機構「稜線構造」について,神経行動学的知見やアナロジーをもとに,絶滅生物である三葉虫の姿勢や行動生態的側面を,接触感知機能の点から明らかにしてゆくことが本研究の目的である. アナロジーとなる現生甲殻類の「稜線構造」と感覚剛毛の組み合わせが,どのような効果を接触感知機構にもたらすのか,配列様式や密度分布検討を行ったところ,骨格に対して水平,または鉛直方向のみの接触刺激をうけるように差別化する効果があることが明らかとなった.鉛直方向のみの刺激を受容する感覚剛毛は,「稜線構造」の尾根に隠れる配置となり,密度もほぼ一様であるが,水平成分の刺激も受容する感覚剛毛は,「稜線構造」の尾根の高さ超えて斜面上に屹立し,骨格の特定部位に密集する傾向がある.これらの接触受容の差別化を岩礁の隙間への隠遁行動と照合すると,水平成分は逃避中など動作中の外部周辺物と骨格上の局所的に密集する特定部位との接触で逃避ルートの判断を,鉛直成分は隠遁姿勢などの静止状態を骨格上ほぼ一様に分布する感覚剛毛群を介してモニタリングしていることが示唆される. 行動中に接触する骨格上の特定部位は,表面形状の突出や強い曲率が認められる.このような部位の「稜線構造」の高さは30~50μmで平坦部の数倍となる. 三葉虫の外骨格上においても,表面形状の曲率が強い領域では「稜線構造」の高さがほぼ同等の値となり,平坦な領域では低い稜線のみで占められることが,研磨断層の立体復元から明らかとなった.このことは,三葉虫が行動様式において行動中と静止状態において,底質などと自らの姿勢を常に把握し,呼吸や採餌の水流をモニタリングできる機構が備わっていたことを強く示唆していることを意味する. この内容を平成24年度の国際学会で発表する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三葉虫化石に認められる骨格上のみの形質と照らし合わせるアナロジーについては,生物学領域での先行研究による知見に加えて,今回の研究結果をもとに古生物との比較が可能となるレベルに押し進められたことから,今後のスムーズな研究の進行と展開が期待できる結果となっている. 比較対象として設定した三葉虫種3種Eobronteus laticauda(膨らみ弱:弱膨型),Nileus armadillo(中膨型),Stenopareia oviformis(強膨型)の高精度三次元形態立体構築について,比較可能な精度を得るためには想定以上の時間を要したため,現状で完了したものは強膨型種のみである. 現在比較可能なものが1件のみであるが,その検討結果は申請時の予測を上回る事象が明らかになり,また極めて判り易い結果となったことから,研究の達成度はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
室内作業として未完成のEobronteus laticauda(膨らみ弱:弱膨型),Nileus armadillo(中膨型)の高精度三次元形態立体構築の完成を目指してゆく.また,節足動物の行動と接触刺激受容の関係性について,さらに文献調査を行い,外界状況ー刺激受容ー行動発現の関係性の理解を押し進める.これらを平行的に進めることで,予定した化石データとアナロジーデータが完成後,三葉虫の姿勢や行動生態的側面を,接触感知機能の点から明らかにする考察段階へと進む方策である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
高精度三次元形態立体構築が未完成のEobronteus laticauda(膨らみ弱:弱膨型),Nileus armadillo(中膨型)については,試料の保存状態が不適当であったという問題があった.立体構築の作業プロトコルについては確立済みである.そこで,三葉虫における骨格形態フォルムと「稜線構造」の対応関係を完成させるべく,試料を補完するために夏期に再度スウェーデンで野外調査を行い予定である.次年度の研究費使用の主眼は,この点を重視してゆく計画である.
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