2013 Fiscal Year Annual Research Report
過去の海水の酸化還元変動を知る~クロム同位体を用いた新しい挑戦~
Project/Area Number |
23740387
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
黒田 潤一郎 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部ダイナミクス領域, 主任研究員 (10435836)
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Keywords | 古海洋 / クロム同位体 |
Research Abstract |
クロムは酸化還元変化に敏感な元素であり,酸化還元反応で同位体分別が起こることが知られている.一方,海水はやや重い値を持つ.海水の溶存クロムのほとんどは6価として存在し,還元されると3価になる.還元の際に同位体分別が起こり,軽い同位体が選択的に還元されるため,海水には重い同位体が残る.バハマバンクのアラレ石のクロム同位体比は海水の値に近い値を持つ.このことから,炭酸塩中のクロム同位体比は,海水の溶存クロムに由来すると考えられる.つまり,炭酸塩中のクロム同位体比から,地質時代の海水のクロム同位体比変動が復元できる可能性がある.6価から3価への還元は,比較的高い酸化還元電位で起こるため,酸化的な海洋環境から還元的になる過程の初期段階で大規模な海水のクロム同位体比の変化が起こると予想される. 私は炭酸塩堆積物のクロム同位体比の酸化還元指標としての可能性に注目し,地質時代の海水の酸化還元変動を堆積物から復元することを試みた.1年目には石灰質堆積物から効率よくCrを分離・抽出する方法を構築した.2~3年目にはその同位体比を測定した.白亜紀アプチアンに太平洋のMid-Pacific Mountains に堆積したチョークと,Resolution ギョーに堆積した浅海性石灰岩,テチス海西部の陸棚遠洋域に堆積したイタリア・マルケ州のチョークの炭酸塩相のクロム同位体比を測定した.アプチアンには,世界各地で有機質黒色頁岩が形成する海洋無酸素事変(OAE)-1aが起こっており,海水の酸化還元電位がドラスティックに変動している.太平洋の浅海性石灰岩のクロム同位体比は重い値を持ち,最も重い値は黒色頁岩の堆積が始まる直前のアプチアン最初期に認められた.一方,遠洋性チョークでは地殻と同じ値となった.このことから,浅海性石灰岩は海水のクロム同位体比を反映し,遠洋性チョークのクロム同位体比は堆積後の続成の影響を強く受けることが分かった.
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