2012 Fiscal Year Annual Research Report
古細菌由来の脂質バイオマーカーを用いた古海洋環境変動解析
Project/Area Number |
23740401
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大庭 雅寛 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40436077)
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Keywords | 古細菌 / バイオマーカー / 古環境 / エーテル脂質 / 嫌気環境 |
Research Abstract |
本研究は、生物絶滅事変期堆積岩中に含まれる古細菌由来の膜脂質成分とその続成変化生成物から、当時生息していた古細菌の活動実態を明らかにし、その組成や古細菌バイオマス変動から、海洋無酸素事変やメタンハイドレート分解事変などの古海洋環境変動の解析を行い、さらにその原因や絶滅事変との関連性について解明することを目的とした。 ・古細菌の膜脂質成分であるエーテル脂質の続成変化挙動を明らかにするため、エーテル脂質とエステル脂質を加熱し、それぞれの脂質や熱分解生成物の存在量の経時変化を調べた。200℃加熱によりエステル脂質は1時間で全分解したが、エーテル脂質は15時間後も約8割が残存しており、エーテル脂質がエステル脂質より熱的に安定であることが判明した。エステル脂質の分解生成物は1-アルキルグリセロールが2-アルキルグリセロールより圧倒的に多く検出されたのに対し、エーテル脂質の分解生成物では1位のものと2位のものが等量生成した。これはエステル脂質では、グリセロールに結合している脂肪酸が転位したことに由来すると考えられたが、エーテル脂質ではこの転位反応が起きないことが判明した。 ・南中国貴州省の前期三畳紀(2.5~2.4億年前)堆積物中のエーテル脂質分析を行い、当時の海洋無酸素事変の実態を明らかにすることを目的とした。分析の結果、古細菌由来のアーキオールや硫酸還元菌由来と考えられるモノエーテル脂質やジエーテル脂質が検出された。これまで、エーテル脂質の最も古い検出例は1.16億年前のものであった。ゆえに、本研究におけるエーテル脂質の検出は、これまでで最も古い検出例となる。検出されたエーテル脂質の安定炭素同位体比や、他のバイオマーカーの特徴などから、メタン消費古細菌と硫酸還元菌の共生による嫌気的メタン酸化が当時の海底付近で起きていた可能性が示唆され、当時の海洋無酸素事変に関する新たな知見が得られた。
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