2011 Fiscal Year Research-status Report
高時間分解・空間分解能を有する分光装置の構築と局所場での新奇光化学反応制御
Project/Area Number |
23750016
|
Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
石橋 千英 愛媛大学, 理工学研究科, 助教 (10506447)
|
Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2013-03-31
|
Keywords | 空時間分解計測 / 光物性評価 / ナノ材料 / 励起状態ダイナミクス / 過渡分光 |
Research Abstract |
本研究は、有機固体の光反応や単発現象など従来の時間分解分光計測手法では対応できない試料を対象とし、その反応をサブマイクロメートルの空間分解能で、実時間観測することを目標とする。 平成23年度は、まずは試料が光劣化しやすい系に対して有効な測定システムを構築した。この測定システムは、Stair-step型の特殊ミラーと高感度CCDカメラを導入することで、従来の測定手法と異なり、1回の励起で反応ダイナミクスの測定が可能であるために、試料の光劣化を避けることができる特徴を持つ。次に構築した測定システムの性能評価を行った。評価には、チタンサファイヤーレーザーの第2高調波発生による自己相関関数信号を取得することで行い、その信号検出には購入した高感度CCDカメラと分光器を組み合わせ用いた。その結果、通常ミラーを用いた測定でのパルス幅が150 fsであるのに対し、特殊ミラーを用いた場合でも、同様に150 fsのパルス幅が得られた。これは特殊ミラーを測定光学系に導入しても、時間分解能を損なわず、1回の励起で反応ダイナミクスを観測できることを意味する。現在は、マイクロメートル程度の空間分解能を付加するために光学顕微鏡下での測定を可能にするための測定検出系をハードとソフトと両面からアプローチし、S/N比の向上を行っている。特に、光学顕微鏡の導入により微小領域での試料劣化(融解)が激しくなることが、予備実験から得られた。そこで、励起レーザー光の強度を落とす方法による測定光学系も構築し、試料からの過渡信号を得られる状態にある。これは測定光学系がマイクロメートルの空間分解能を得ていることを裏付ける結果であり、次年度で計画している測定光学系の改良へつながる。 加えて、上記の測定光学系の予備実験としてフラーレンナノ粒子コロイドの励起状態ダイナミクスの測定を行い、その成果は、国内の学会において報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、試料が光劣化しやすい系でも測定可能な光学系を構築することと、構築した光学系を用いて試料を測定し、その反応ダイナミクスを解明することの二つに分けられる。特に測定光学系の再構築が完了しないことには、本格的な試料測定には進むことができない。平成23年度は構築する測定光学系で重要となるStair-step型の特殊ミラーに関して、作製依頼した業者とのやり取り(設計、加工、性能証明など)が長引き、Stair-step型のミラーが手元に届くのが遅れた。そのため研究期間の終盤までも、測定光学システムの再構築に時間を要したために、若干遅れている感が否めない。しかし、特殊ミラー到着以前に、測定光学系の再構築は半分以上済ませており、吸収分光計測だけでなく、発光分光・イメージング計測も可能となり、測定光学系に付加価値を与えることができた。特殊ミラー到着後は、当初の計画通り、順調に光学系の再構築が進んだが、光学顕微鏡をシステムへ導入する方法や微弱な信号検出の方法などの問題点に直面し、その問題を完全に克服しているわけではない。その中で、国内の学会において、一件ではあるが、本研究で行った予備実験の一つであるフラーレンナノ粒子コロイドの励起状態ダイナミクスについて、その成果を報告できた。また、その成果報告の場において、他の同分野の研究者からのアドバイスを受け、上記の問題点だけでなく、次年度で改善する予定の空間分解能の向上へつながる手がかりをみつけることができ、平成23年度の遅れを次年度では充分に取り戻せる段階にある。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策として、平成23年度の結果を鑑み次の2点を予定している。 一つ目は、試料が光劣化しやすい系でも測定可能な光学系の性能評価である。これには最も信号を検出しやすいペリレンやフラーレンを用い、Stair-step型のミラーとCCDカメラ検出系とを重点的に見直す。なかでも、Stair-step型のミラーには、遅延時間の長さ、段数、段差の高さなど光学系を構築した際に得られた問題点が多く、大部分を見直す必要がある。そのためミラー作製を依頼した業者と加工方法、性能証明などを再度打ち合わせし、改善したミラーを設計、購入する。その他、微弱信号を検出可能にするために、検出系をハードとソフトの両面から改善する。現在は、光学顕微鏡と特殊ミラーを組み合わせて用い、単発現象でも測定可能な光学系にする予定であるが、空間分解能を達成するために使う光学顕微鏡の導入方法に問題がある予測される。また高強度のレーザーパルスを顕微鏡下で固体試料に照射した場合、試料の分解(融解)の寄与が取り除けなくなることが予備実験から明らかになった。これらの事象を踏まえ、再生増幅器を使わずに、レーザー発振器のみで測定を行うことが可能な光学系の構築への切り替えも検討し、試料の劣化具合で、どちらの光学系を選択できるように対応する。 二つ目は、作製した光学系を使って、実際に試料測定を行う。試料は、なるべく試料表面が平坦で、かつマイクロメートルサイズの大きな結晶が予備実験段階で明らかになった。したがって、試料作成を行いやすく、かつ光劣化しにくいペリレンやフラーレンなどの試料を対象に重点的に測定し、その結果は測定光学系の評価も兼ねる。その後、最終的に準備していたフォトクロミック試料に対して測定を行う。試料作製においては、平成23年度に参加した学会などにおいて、同分野の研究者からアドバイスを頂いており、充分に対応できる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費の使用計画として、主に2つに分けられる。 一つ目が、物品購入費である。次年度は、高額の物品を購入する必要はないが、今後の研究推進方策に示したように特殊ミラーと測定光学系の改良に必要な光学部品の購入を予定している。特に、特殊ミラーに関しては、研究費の大半を占めるものではあるが、ミラー作製を依頼した業者とミラー設計、加工に関して相談している段階にあり、ある程度安価に購入できる予定である。一方、光学部品は予備実験の段階で、不足した部品は確認できており、随時、発注、購入する予定である。その他、測定試料であるフォトクロミック材料や溶媒、ガラス器具などは平成23年度に既に購入してあるが、測定光学系の評価で必要な試薬やガラス器具などを新たに購入する予定である。 二つ目は、成果発表や情報収集に必要な旅費である。次年度は本研究の最終年度にあたるので、2年で得られた研究成果を国内、あるいは国際会議で報告する予定である。現在、予備実験として行った研究成果に関して、1件、国際会議にて発表予定であり、その予算申請段階にある。加えて、測定光学系の汎用性をあげるために、情報収集を行い他の分野の研究者へ周知する。その他、同研究分野の研究者と積極的に交流し、測定光学系を評価、改善する予定である。これら理由で、研究費の半分を旅費として申請している。
|